データを共有して世界の問題を共に考える

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2022年02月10日

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)がまん延してからのこの2年余りで、大変お世話になっているのがオックスフォード大学の研究者が中心になって運営している“Our World in Data”である。新規感染者数、死亡数、入院している人数やワクチン接種回数などのデータが世界中の国について日々更新されている。感染防止のため各国がどのくらい厳しい外出・移動制限等を講じているかを示すStringency Indexも入手できる。しかも、それらのデータを自由に使うことができるのだからありがたい。

コロナ感染は2020年初めから瞬く間に世界中に拡散したが、この未知のウイルスの感染状況の特徴やその影響を一刻も早く知りたいと多くの人が考える中、データに対する需要が二つの点で大きく変わったと見受けられる。一点目は米国、中国、あるいはEUのように経済的に大きな存在感を有する国や地域だけではなく、世界中のさまざまな国の状況が注目されるようになったことである。また、伝統的な経済データは四半期ベースのGDPや月次ベースの生産、物価統計などが主だが、急速に進展するコロナ感染の状況を把握するために日次データへの注目が飛躍的に高まった。

以上のような新しいニーズに合致したデータを提供している“Our World in Data”だが、コロナ感染をきっかけにデータ提供を始めたわけではなく、ウェブサイトの説明によれば10年ほど前から活動が始まっていたようである。貧困、病気、飢餓、気候変動、戦争、不平等など世界が直面するさまざまな重要課題を解決するためには、優れた研究やデータを公開して共有し、活用することが重要と考えて始まったプロジェクトとのことで、データを公共財と位置付けている。公開されているデータは、人口動態、アルコール消費量、児童労働、エネルギー利用、電気自動車に民主主義と多岐にわたる。

“Our World in Data”の活動を始めたきっかけについて書かれた一節に、日々のニュース報道だけでは適切な問題把握には十分でないとの趣旨の記述がある。英語のnewsが新しい(new)の複数形であることが示唆するように、ニュース報道の重要な価値の一つは新しさであるが、それゆえ新しいできごとが生じれば、それまでのニュースは脇へ追いやられてしまいがちである。過去から現在につながるさまざまなデータを活用し、また国ごとの比較を通じて、問題の本質をつかみ、解決策を考えることは当社のリサーチが目指しているところでもある。目下のところはコロナ感染とその影響にどうしても注意が向いてしまうが、より長期的かつ広い視野を持って世界の課題を考えてゆきたい。

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山崎 加津子
執筆者紹介

金融調査部

金融調査部長 山崎 加津子