ロシア経済:気になるのはオミクロン変異株よりもインフレ上昇基調

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2022年01月27日

  • シニアエコノミスト 菅野 沙織

世界各地ではオミクロン変異株がこれまでにない勢いで拡大している。英国では感染者数が毎日数万人前後で推移しており、政府が入院患者数の傾向に着目し、新型コロナウイルスに感染し入院した人数が、他の治療を必要とする患者が後回しになるほどまでに増え、医療が崩壊しないように規制の強化を検討している。一般市民は、オミクロン変異株に向けた政府対策の内容やその発表のタイミングを推測しながら日々を過ごしている。欧州では、国によってオミクロン変異株の感染状況は少々違っていても、多くの人にとっては新型コロナウイルスの関連ニュース、とりわけ感染者数やワクチン接種状況、親戚や友達が感染したか否かの確認や、政府の対策等といった情報が日常的なメインテーマになっている。

しかし、一年後に私たちが2022年を振り返った時に、まず思い出すのはオミクロン変異株なのか、あるいは、1970年代の高インフレの世界を連想させるような、オミクロン変異株の影に隠れながらもじわじわと人々の生活に影響を与えたインフレのことなのであろうか。二年ほど前には誰も想像しなかった、先進国のインフレ上昇基調には徐々に現実感が増している。実際、2021年12月には英国のインフレ率は前年比5.4%となり、米国でも同7.0%となったが、これは先進国と思えない、エマージング・マーケッツ並みのインフレ率である。

ロシアでは、新型コロナウイルスの一日の感染者数が2万5千人前後で推移しており、うちオミクロン変異株の感染者数は数百人程度である。だが、メディアや中央銀行(中銀)の注目、また市民の懸念はすでに、オミクロン変異株の感染よりもインフレ上昇に向いているのである。

2021年12月17日、ロシア中銀は政策金利を1%ポイント引き上げ、これにより金利は8.5%と4年ぶりの高水準に達した。今回で利上げは7会合連続となり、7回の利上げによる政策金利の上昇幅は合計4.25%となった。

12月の利上げ幅について、ナビウリナ・ロシア中銀総裁は記者会見で、1%ポイントの利上げ幅は金融政策を決定する理事会会合で検討された上げ幅の上限であり、他の利上げ幅として50bpや75bpも検討されたと述べた。1%ポイント引き上げの背景には、インフレ上昇ペースがロシア中銀の予想を上回っていることが挙げられる。実際、同中銀が10月に発表した見通しでは年末のインフレ率は前年比7.4%~7.9%になると予想されていたが、ロシア統計局のデータによれば12月のインフレ率は前年比8.4%となり、ロシア中銀の予想を大幅に上回ったほか、2016年1月以来の高水準となった。

今回、ロシア中銀は2021年末のインフレ率予想を発表しなかったが、ナビウリナ総裁の会見によれば8%前後が見込まれている。インフレ上昇に伴い、2021年12月の期待インフレ率も14.8%と5年ぶりの高水準に達した。一方で、ロシア中銀は2022年末までにはインフレ率が4.0%~4.5%まで低下すると予想している。しかし、インフレ上昇のペースや高い期待インフレ率を考慮すれば、この予想を達成するにはロシア中銀は今年も数回に渡り利上げを実施する必要が出てくる可能性も否定できないことに加え、それでもインフレ上昇に歯止めをかけることができるか否か関心を集めている。

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