市場を選択する、選択できるということ

~CGコードのプライム市場向け原則等~

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2022年01月13日

2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コード(CGコード)の大きな特徴の一つは、2022年4月4日に予定されている東京証券取引所(東証)の新市場区分に即して、「プライム市場」上場会社には、他よりも上乗せされた原則等(原則、補充原則)が設けられていることである。

プライム市場上場会社は、新市場区分がスタートする2022年4月4日以降に開催される各社の株主総会の終了後速やかに、これらのプライム市場向け原則等に関する事項について記載したコーポレート・ガバナンス報告書を提出することが求められている。例えば、3月決算のプライム市場上場会社であれば、2022年6月の定時株主総会終了後の提出に向けて、準備を進めているところが多いだろう。

「プライム市場向け原則等か。どのような内容なのだ?」

大きく4つある。①独立社外取締役(1/3以上の選任)、②指名・報酬委員会の独立性と開示、③議決権電子行使プラットフォームの利用、英文開示の促進、④気候変動による自社への影響に関するTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)等の枠組みに基づいた開示の充実だ。

「何の脈絡もないように思えるが・・・」

そのようなことはない。

プライム市場が「グローバルな機関投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場」(※1)と位置付けられていることと関連づければわかりやすいだろう。独立社外取締役の比率や独立性のある指名・報酬委員会の設置は、海外投資家の目から見て、エクスプレインがなくても理解できる、納得性の高いガバナンス体制と説明できるだろう。

「なるほど。議決権電子行使プラットフォームの利用や英文開示も、海外投資家にとっては重要だろうな。」

近年、関心が高まっているサステナビリティ開示についても、その国際的な基準としてTCFDが一つの軸を形成しつつある。

「『プライム市場』というよりは、まるで『グローバル市場』だな。」

そう呼んだ方が市場のコンセプトにも合致する、と個人的には思っている。ガバナンスの基準だけではなく、流動性の基準も、世界中の投資家が投資対象とすると考えれば、決して高過ぎる水準とは言えないだろう。

「だとすれば『スタンダード市場』は、さしずめ『ドメスティック(国内)市場』か?」

プライム市場と比較しての話だが、ガバナンスの観点で国内投資家に対して説明責任を果たす、という意味ではそうだ。

説明責任を果たすべき相手がグローバルな投資家か、国内投資家か、という違いは、確かに企業規模の大小が影響するかもしれない。しかし、そこに上下の区別はないはずだ。

頻繁に入替えが起きる「一部リーグ」、「二部リーグ」のような関係ではないのだ。

「『プライム市場に残留できるか?』といった見方も相変わらずあるな。」

わが国を代表する東証市場が、異なる明確なコンセプトを持つ3つの市場区分に再編されることは歓迎すべきことだろう。CGコードのプライム市場向け原則等も、確かに、プライム市場の位置付け・コンセプトを踏まえて、よく考えられたものになっていると思う。

ただ、こうした取組みが真価を発揮するためには、発行会社が、これらの市場の位置づけやコンセプトを理解した上で、自社の理念、経営戦略、資本政策などに照らして、最もふさわしい市場を選択する、選択できる、ということが大前提だ。

仮に、世間の誤解や興味本位の報道などが、発行会社の市場選択の判断を歪めるようなことがあれば、わが国の資本市場、ひいて経済、産業、社会にとっても痛手となるのでは、と危惧している。

「大げさだなあ。ただ、『最もふさわしい市場』という視点は面白い。今後、意識してみるとしよう。」

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳