分配と格差の問題への政策対応

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2021年12月23日

  • 調査本部 常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準

格差問題を意識しつつ、市場における所得の一次分配や、政府による再分配をどう行えば次の所得拡大につながるのかが政策テーマになっている。例えば、2000年代になって賃金は横ばいで、上場企業の配当が5倍に増えたことをどう捉えたらよいか。それ以前は労働分配率の高止まりが日本経済の課題で、配当率の低さは資本生産性の低さを示していたと考えれば直ちにそれが問題であるとも思えないが、何らかの政策対応が必要という声がある。

実質賃金は生産性が上がらなければ自律的・継続的な上昇が見込めず、高くない賃金が雇用を増やしているだけでは展望が開けない。低生産性・低賃金という現状から抜け出したいが、その王道が人への投資であるのは確かだろう。また、企業は費用である賃金支払いを増やせば法人税の負担をもともと減らせるが、費用を差し引いた企業利益に対する課税を一部免除した財源で賃上げをブーストさせる操作を税制改正で強化することになった。

企業は利益を配当しても内部留保しても批判されているが、支払われた配当の一部は、公的年金の積立金に上積みされている。日本株だけでも約2,400銘柄に投資している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の収益額は、2001年度以降2020年度までで95.3兆円にのぼり、うち40.2兆円がインカムゲインである。配当や株価上昇は一部に独占されているのではなく、年金保険料引き上げや年金給付引き下げの回避を通じて全国民に還元されている。

個人が受け取る配当やキャピタルゲインに関する課税のあり方も論点になっている。賃金に対する所得税率は、所得税納税者のうち約6割が5%で、8割強が実効税率10%以下である。これと比べて、すべての納税者に適用されている金融所得に対する所得税率15%は大多数の人々にとってかなりの重課である。しかも、利子所得とは異なり、配当所得は法人税と所得税が二重に課税されている。

不況になれば労働分配率が上昇するように、労働への分配は景気変動があっても安定的である。多少の経済成長によって資本への分配率が高まったり、配当が増えたりすることが仮に問題だとしたら、日本の場合、預貯金偏重で資本分配率が高まることの恩恵が及ぶような家計金融資産の構成になっていない点に本質的な課題がある。各種の資産形成制度や私的年金制度への税制インセンティブを強化し、家計金融資産の構成を変えることこそ分配機能の強化になる。

資産格差を考える際には、金融資産の内訳だけでなく、金融資産と実物資産の関係も忘れてはならない。2019年の相続税の申告財産は40.2%を土地・家屋等が占めており、有価証券は14.5%にすぎない(現金・預金、生命保険等が38.8%)。資産面での実態的な格差は株式等ではなく不動産で大きいだろう。資産課税上の取扱いが資産によって違っていたり、資産が生み出す所得への課税や資産保有者の負担能力を測るモノサシが一部の資産だけに着目した歪んだものであったりすれば、資産市場間で望ましくない裁定が働き、生産資源の効率的な利用を妨げることになる。

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鈴木 準
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