持続可能な原油価格とは

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2021年11月11日

さまざまな場面で「持続可能性」がキーワードになっている。10月31日から11月12日の期間で開催中の第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)では地球環境の持続可能性が議論されており、温室効果ガスの排出抑制で地球温暖化を食い止め、人類が生存しやすい環境を持続させようとしている。コロナショックからの回復期にある世界経済にとっては経済活動の持続可能性が重要であり、ロックダウン(都市封鎖)を回避するべくワクチン接種や感染抑制策に注力する一方、経済活動に関する制限を段階的に解除している。また、2020年にコロナショック対応で大盤振る舞いした財政政策と金融政策について、出口政策が慎重に議論されているのも、政策の持続可能性が意識されているためである。

ただし、これらの「持続可能性」はそれぞれに目指している目標と、そのための手段が異なっており、それらが互いに衝突することがあり得る。そのような衝突の一つが、現在の原油価格の高騰の背景にあると考えられる。

原油価格高騰の第一の原因は、新型コロナウイルス感染で経済が急速に冷え込んだ2020年から、ワクチン接種が進展し、経済再開へ主要国が動く中で、今度は需要が急回復し、供給とのギャップが拡大したことにある。経済活動の持続性を追究した政策が効果を上げた結果といえるだろう。もっとも、世界的なコロナ感染が抑制されたかといえば、新興国を中心にワクチン接種率がまだ低い国々が存在するだけでなく、ワクチン接種で先行した米欧で新規感染者が再び増加する動きも見られる。感染再拡大が需要回復に水をさす可能性が否定できないことを理由に、産油国は米欧の原油増産要請にこれまでのところ消極的な反応を見せている。

原油高はガソリン価格及び原油由来の原材料価格の上昇に直結するほか、輸送コストや電力料金上昇を通じてインフレ圧力を高める効果が大きい。ガソリンや電気代により多額の負担を迫られる家計は、それ以外の消費を抑制しようとするだろう。また、企業は資源高が持続的なものになれば、程度の差はあれ、製品価格に転嫁すると予想される。インフレ率の上振れが一時的なものでなくなれば、中央銀行は金融緩和政策からの出口戦略を急がざるを得なくなるだろう。原油高が景気減速につながれば、それはいずれ原油価格の高騰に歯止めをかける要因となるはずである。

ただし、ここで温室効果ガスの排出削減という中長期の課題がクローズアップされていることが攪乱要因となっている可能性がある。化石燃料の使用を減らすために、化石燃料の価格を上昇させるカーボンプライシングの導入が進められている。また、金融の世界では石炭火力発電所の建設など温室効果ガスの排出を増やすプロジェクトへの出資や融資に対する風当たりが非常に強まっている。化石燃料の価格が高ければ、再生可能エネルギーへの転換に向けて大きな後押しとなるが、他方でそれが足元の景気回復を腰折れさせる要因となる懸念がある。地球環境の持続可能性と景気回復の持続可能性が衝突しているわけだが、これは原油という資源が有用な燃料・原材料というだけでなく、燃焼させれば温室効果ガスを排出するコスト面も意識せざるを得なくなったことを示している。「持続可能な原油価格」とはどのようなものなのか、その結論はまだ出ていないと考えられ、今後の原油価格の動向が注目される。

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山崎 加津子
執筆者紹介

金融調査部

金融調査部長 山崎 加津子