「挽回消費シナリオ」を考えるうえでのポイント

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2021年11月09日

緊急事態宣言等が全面解除された2021年10月以降、経済活動の再開と新型コロナウイルスの蔓延防止は両立されており、今後は経済活動の正常化が一段と進むことが予想される。こうしたなかで景気回復のドライバーとして期待されるのがコロナ禍で積み上がった過剰貯蓄を原資とした“挽回消費”である。

感染拡大以降、特別定額給付金などの支給やサービス消費の抑制によってマクロ経済全体で見た家計貯蓄は急増した。コロナショック前のトレンドからの乖離を過剰貯蓄とみなせば、その額は40兆円を超えたと推計される。挽回消費とはコロナ禍で旅行や外食を我慢していた人々が経済活動の再開に伴い、これらの支出を拡大させることを指し、原資として過剰貯蓄の一部が取り崩されるとみられる。

ただし、過剰貯蓄を原資とした挽回消費の拡大というシナリオを考えるうえでは、過剰貯蓄が主として無職世帯(年金受給世帯等)や高所得世帯に偏在している点に注意を払う必要がある。世帯主が勤労者の低所得世帯では過剰貯蓄はあまり増加していない。低所得世帯はコロナショックの悪影響を特に強く受けたことが背景にあるとみられるが、所得の回復が不十分な同世帯の挽回消費は限定的だろう。さらに、所得分布・人口分布が地域間で異なることを考慮すると、同一業種においても挽回消費の恩恵を一様には受けることができず、一部の企業にとっては厳しい状況が継続する可能性があろう。

また景気変動という観点からは、再開が見込まれる「Go To キャンペーン」のタイミングも注視する必要がある。同キャンペーンがなくとも挽回消費による個人消費の短期的な押し上げが見込まれるため、再開時期が挽回消費の発現時期と重なると景気変動が増大される。そうなれば、挽回消費が一巡した後の需要の落ち込みは大きくなりかねない。

こうした懸念は残るものの、挽回消費が話題に上がるということ自体は日本が経済活動の正常化に向けた道筋を辿っていることの表れであり、望ましいことである。このまま順調に感染が収束し、ポストコロナ時代を迎えられることを切に望む。

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久後 翔太郎
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 久後 翔太郎