デカンショ節のメッセージ

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2021年11月02日

  • 中沢 則夫

デカルトも、カントも、ショーペンハウエルも読んだことはないが、デカンショ節は高校生の時分から高歌放吟で諳んじている。その何段目かに曰く、

♪ 親父親父と威張るな親父、親父息子のなれの果て ♪

父親に小言を言われて鬱陶しい思いをしている息子が、老いぼれ親父をこき下ろすという趣旨。これを受けて親父が息子に応戦する。

♪ 息子息子と威張るな息子、息子親父のひとしずく ♪

えらそうなことを言っても、所詮は自分のほんの一つまみの分身にすぎぬ。一人前のつもりでも、まだまだハナ垂れだ。

この問答はバンカラな空気の中での突っ張り合いであって、お互いに敬意と愛情を共有している底流が見て取れる。

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会社組織の中で「妖精さん」と揶揄されている人達がいる。彼ら(筆者の立場では「私達」というべきかもしれない)は、日がな一日お茶を飲み新聞を読んで、夕方になったら居酒屋で一杯ひっかけて、ご機嫌に帰宅する。おじさん達の多くは年齢相応に頑固でエラそうだ。細かなルールやしきたりにうるさい割に自分がルールだという顔をする。SNSも使いこなせない。スピード感にも劣る。面倒くさい仕事から逃げる。それでいて、自分たちよりは高い給料をもらっている。ピチピチした若者たちにとって、仕事に追われ、ノルマに締め付けられる中、妖精さんの姿を許しがたいと感じる感情は至極全うであろう。

ここで私が問いかけたいことは、「本当に彼らは何もしていないのか?何の能力もないのか?彼らを遊ばしている原因は何か?」ということである。

彼らは数十年、組織で仕事をしてきた。転職も経験したかもしれない。そこで得た経験値は、数年の社会人経験、しかも組織の最底辺で仕事のごく一部を押し付けられてきた入社年次の浅い人たちとは比較にならないくらいの蓄積がある。

嫌な上司にいじめられ、辛い仕事も引き受けてきただろう。働き方改革という言葉もない時代に「24時間戦えますか?」と歌いながら、私生活を削って仕事に打ち込んできた。その生命力は並大抵のものではない。その反面「どうやって、要領よく手を抜くか」という知恵もあるはずだ。年齢を重ねているだけに人脈もある。杓子定規なルール通りに処理すると途中の関門で動かなくなる案件でも、「社長は俺の同期だから、一言いっておくよ。」と一瞬に解決するようなこともあるだろう。そして、何よりも「成長すること、拡大していくこと」とは何かということを骨身に沁みて知っている。リスクを考えるのも大事だが、まず行動を起こして世の中を変えていくという世界で生きてきた。

若者たちよ。 妖精さんを遊ばせている原因が自分たちにはないか、と今一度、問いかけてみてはどうか? 彼らにモチベーションを持たせるような仕事を与えたら、もともと仕事中心で生きてきた人たちは喜んで食いつくはずだ。いろいろな経験や知恵をタダで教えてくれるかもしれない。若者にとって妖精さんは宇宙人かもしれないが、彼らにとって若者は所詮「ひとしずく」である。敬遠するのではなく、ジジ殺しに徹して余禄を頂戴してはいかが?

以上のことは若い人世代に対してだけではなく、世の企業経営層一般に対しても申し上げたいことである。また、ベテラン社員との対話促進は組織内融和というミクロの問題解決を越えて、昨今話題の「成長と分配のどちらを優先させるか」という政治論争次元のマクロにも応用できるはずだ。

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最後に余談を付け加える。バリエーション多彩なデカンショ節も共通の謳いだしは、このようなもの。

♪ デカンショ、デカンショで半年暮らす、あとの半年は寝て暮らす ♪

丹波篠山民謡に、ワ—ク・ライフ・バランスを示唆する預言が隠されていたこと、新しい発見である。

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