目標設定の難しさ

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2021年10月25日

  • 斎藤 航

組織や個人が何かを成し遂げたいと思うとき、目標を適切に設定することは重要と思われる。しかし、ただ漠然と目標を設定するだけでは効果的とはいえない。目標設定のためのフレームワークとしては、“SMART”や“FAST”という考え方がある。

“SMART”という考え方は、Doran(1981)(※1)が提唱したマネジメントにおける目標設定のフレームワークが起源である。論者によって、“SMART”の定義は様々であるが、オリジナルの定義は以下の通りであり、それぞれの頭文字をとり、“SMART”と呼ばれている。

Specific:具体的な改善領域を特定する
Measurable:目標の達成につき定量化するか、少なくとも進捗具合の指標を示す
Assignable:誰が何をするかを明確にする
Realistic:現実的な目標を設定する
Time-related:目標に対する結果がいつ達成可能か明らかにする

Doran(1981)は理想的には、企業、部門、部署の目標をこれらに則り定めるべきであるとしている。

一方で、伝統的な“SMART”とは別の考え方も出てきている。Sull & Sull (2018)(※2)では、以下の頭文字をとった“FAST”という考え方を提唱している。

Frequently discussed:目標に向けた進捗を頻繁に議論する
Ambitious:目標が不可能ではない範囲で野心的
Specific:目標が具体的な指標で計測可能
Transparent:目標が共有され組織の全員から見えるような透明性がある

両者は、目標を具体的に測定可能に設定する必要があるという点では一致している一方、“FAST”では、①目標をより野心的に設定する、②設定した目標に何度も立ち戻り目標に向けた進捗を検証する、③目標を(組織内で)共有する、という点で異なる。

ここで①について注目すると、“SMART”では、目標への到達可能性を重視する一方で、“FAST”では目標が野心的であることを重視していることがわかる。目標を野心的に設定することにより、現状に甘んじず、新しい技術や方法に挑戦することで、(長期的には)組織・個人のパフォーマンスの向上が期待される。しかし、目標があまりに現実離れしてしまうリスクもあるうえ、社会インフラを扱う事業など成し遂げようとしている課題の内容によっては、安定性・継続性が求められる場合がある。このような場合は、野心的過ぎる目標設定はむしろマイナスとなろう。実際に目標を設定する際は、野心的であることと到達可能であることのバランスが大事だと思われる。

例えば、改訂コーポレートガバナンス・コードにより管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標の設定が上場企業に対して求められるなど、企業から個人まで目標設定が求められる機会は多い。しかし、目標の設定は簡単なようで難しい。“SMART”や“FAST”はマネジメントの領域で提唱された概念であるが、企業は無論、個人が目標設定する際にも活用できるだろう。適切な目標の設定のためにこれらのフレームワークを参考にしてみてはいかがだろうか。

(※1)Doran GT(1981)“There’s a S.M.A.R.T way to write management’s goals and objectives”, Management Review, 70 (11), pp.35–36.
(※2)Sull D and Sull C (2018) “With Goals, FAST Beats SMART”, MIT Sloan Management Review.

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