監査等委員会設置会社、再論

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2021年10月14日

コーポレートガバナンス・コードの2021年改訂で、プライム市場上場会社に対して「独立社外取締役を少なくとも3分の1(…中略…)以上選任すべき」(※1)と定められたためだろうか、最近、監査等委員会設置会社について質問を受ける機会が増えた。

監査等委員会設置会社は、2014年の会社法改正で導入された比較的新しい機関設計だ。指名委員会等設置会社から指名委員会・報酬委員会・執行役を抜いたもの、と説明されることもある。もっとも、筆者には、監査役会設置会社の取締役会の中に監査役会を取り込み、監査役に(業務を執行しない)取締役を兼務させたもの、という説明の方がしっくりとくる。最近では、東京証券取引所の上場会社の1/3以上を占めるまでに普及している。

「要するに、社外監査役を社外取締役に横滑りさせて、社外取締役の人数を稼ごうということだろう?」

確かに、そうした側面もあることは否定できない。しかし、すべてをそう決めつけるのは不当であろう。
まず、監査役と異なり、監査等委員である取締役は、取締役会で議決権を行使できる。

「つまり、意見を述べるだけでなく、取締役会の決議を左右できるということか。」

加えて、監査等委員である取締役という立場にあるため、その監査の権限は、適法性監査だけではなく、妥当性監査にも及ぶ。

「具体的にはどういうことだ?」

監査役の会社法上の監査権限は、適法性、すなわち、取締役の職務の執行が法令や定款に違反していないか、が対象とされている。それに対して、監査等委員は取締役という立場にあるため、その会社法上の監査権限は、適法性だけではなく、妥当性、すなわち、違法な職務執行が行われていないかだけではなく、経営方針等に準拠して合理的・効率的に職務執行が行われているか、についても対象となると解されている。

加えて、監査等委員会設置会社には、法定の指名委員会・報酬委員会はないが、指名・報酬に関する意見申述権という形で、監査等委員会がその一端を担う仕組みとなっている。

「監査等委員は、ガバナンス上、大きな役割と権限を持っていると言いたいのだな。しかし、その折角の大きな役割と権限も実際に行使されなければ意味がないのではないか?」

確かにその通りだ。
監査役会設置会社には、監査役は単独で監査権限を行使できる「独任制」という強みがある。また、指名委員会等設置会社には、監督(取締役)と経営(執行役)の分離という強みがある。これらと比較して監査等委員会設置会社には、独自の強みは残念ながら見当たらない。

そもそも監査等委員会設置会社は、監査役会設置会社と指名委員会等設置会社の「折衷」に近い性質を有している。そのため、両者の「いいとこ取り」が可能となる一方、「わるいとこ取り」に陥る危険性もある。いわば「両刃の剣」だ。

「結局、その会社のガバナンスに対する考え方次第ということだな。」

かつて筆者は「仕組みは、あくまでも仕組みに過ぎない。どんな立派な仕組みを作っても、魂を入れなければ、結局、うまく機能しない。その意味では、監査等委員会設置会社に移行すること自体よりも、なぜ移行するのか、移行して何がしたいのか、を見極めることが重要だろう」(※2)と論じたことがある。
この考えは今でも変わっていない。

(※1)コーポレートガバナンス・コード原則4-8

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳