東京パラ五輪が多様な「リアル」を見つめ直すきっかけへ
2021年08月24日
本日、東京パラリンピックがいよいよ開幕する。今大会は、新型コロナ禍という厄災で開催が1年延期され、開催直前に国内で新型コロナウイルスの新規感染者数が急増し、さらに、その開催への賛否両論も渦巻くという、五輪史上極めて異例の状況下で開会式を迎えることになった。
従来よりも感染力と毒性が強いとされるデルタ変異株の感染拡大で国民の不安が高まる中での開催に対しては、先に閉幕した東京オリンピックとともに、国民の分断をもたらす祭典になるという声も聞かれる。その程度はともかく、今大会に分断という暗い「影」が差していること自体を否定する人は少ないだろう。
しかしその一方で、パラリンピックをはじめパラスポーツには、分断を再びつなぎ合わせる「光」の部分も大きいと筆者は考えている。それは何かというと、パラアスリートや家族、関係者がこれまで多大な困難を幾度も乗り越えてスポーツに挑んできた姿そのものだ。
筆者がパラスポーツに関心を持ったのは、車椅子バスケを題材とした「リアル」という漫画がきっかけであった。おそらく、この漫画を知らない人も多いと思われるが、作者は、かつて少年漫画で一大ブームを巻き起こしたバスケ漫画「SLAM DUNK」(スラムダンク)の井上雄彦氏だ。
漫画のあらすじは、中学まで陸上短距離走の有力選手だった主人公が予期せぬ病魔に襲われて右足を失い、その後、車椅子バスケに出会い、周囲のサポートを受けながら挫折や葛藤を徐々に乗り越えていくというストーリーになっている。他の主要な登場人物も様々な苦難や障がいという厳しい現実に直面する。
明るくポジティブなスラムダンクと比べてかなり重いテーマ設定になっているが、障がいやパラスポーツ、友情、家族などについて多くの示唆を与えてくれる。また、今でこそダイバーシティ(多様性)やインクルージョン(包摂性)という言葉を目にする機会が増えているが、そうした視点から考えさせられる話もある。
現実世界においても、パラスポーツに挑んでいるアスリートや周囲の人の実際の物語には、世界中の多くの人に勇気や希望を与えてくれるストーリーが多数存在しよう。そこに作られた「演出」は不要であり、個々の「リアル」の姿があればよい。
今回の東京パラリンピックが多様な「リアル」を見つめ直すきっかけとなり、多くの人が自分と異なる価値観を一層尊重できるようになれば、国民の分断が今より幾分縮小していくことも期待できる。もっとも、こうしたシナリオは希望的観測にすぎないかもしれない。ただ本日以降は、自分のできる感染予防対策を継続しつつ、テレビやパソコンの前から全てのパラアスリートの健闘を祈りたいと思う。
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