2021年07月13日
短時間勤務の保育士にかかわる規制緩和は進むのか。政府は2021年度からスタートした「新子育て安心プラン」(※1)で待機児童の解消に向け、2021年度から2024年度末までの4年間で14万人分の保育の受け皿を整備する方針を打ち出し、その柱として「短時間勤務の保育士の活躍促進」を掲げている。
具体的には、待機児童が存在する市町村において各クラスで常勤保育士1名必須の要件をなくし、2名の短時間保育士(パート)に代えることもできるというものである。いわゆる短時間勤務の保育士にかかわる規制緩和である。
ここで着目したいのが、「潜在保育士」の存在だ。潜在保育士とは、保育士資格を有するものの、現在保育の仕事に就いていない人を指す。厚生労働省(※2)によると、保育士登録者数は約154万人いるが、うち潜在保育士の人数は約95万人存在する。未だ保育施設で就業したことのない保育士と過去に保育施設で働いたことのある保育士に大別されるが、潜在保育士を如何にして就業に向かわせるかが今回の規制緩和のカギになると筆者は考える。
それでは潜在保育士にはどのような就業ニーズがあるのだろうか。東京都保育士実態調査報告書(2019年5月公表)によれば、過去に保育士として就業した者が再就業する場合の希望条件として、「勤務時間(76.3%)」、「雇用形態 パート・非常勤採用(56.0%)」との回答がある。決して給与などの処遇面にばかりニーズがあるわけでもない。
このような就業ニーズに呼応するように、短時間勤務の保育士を対象とした就業支援サービスを提供するスタートアップが登場し始めている。端的にいうと、ソーシャル系ギグワークとしてのアプリサービスだ。
これらのスタートアップは、「仕事量が多い」、「残業時間が長い」等と言われる保育現場の課題は保育士個人に依存している業務プロセスに要因があると捉え、プラットフォームを提供することで業務の細分化を起こそうとしている。業務が細分化されれば、プラットフォーム上の一つ一つの仕事と短時間勤務を希望する保育士(ワーカー)とのマッチングに繋がるという仕組みである。従来の雇用に依らないため、ギグワーカーを保護するルール作りは急がれるが、保育現場にある課題を働き方ニーズの視点でプロダクト・サービスまで落とし込もうとしている点に可能性を感じる。
上記のスタートアップは短時間勤務の保育士の働き方の一例ではあるものの、常勤・長期の保育士だけに依らない持続可能な日本の保育体制を考えれば、新たな働き方や雇用形態を前提とした、安心できる保育のカタチが次々と創出されることを期待したい。
保育士確保の課題は、仕事量や責任の重さに見合った賃金水準を確保できていないといった処遇面に注目が集まりがちだが、就業ニーズの回答からすれば、常勤・長期に依らない保育士の新しい働き方や雇用を起点としたサービスが提供されることで解決に向かうのかもしれない。
(※1)「新子育て安心プラン」の公表について(2020年12月21日 厚生労働省)
(※2)「保育士の現状と主な取組(保育の現場・職業の魅力向上検討会(第6回)資料)」(2020年9月17日 厚生労働省)
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