ウナギの保護を考えつつも、躊躇なく食べたい

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2021年06月30日

  • 経済調査部 市川 拓也

6月も終わり7月に入るこの時期から、暑さが増すとともに食べたくなるのがウナギである。今夏の土用の丑(うし)の日は7月28日であるが、ウナギ料理は丑の日でなくても食べたくなる。滋養強壮効果があると言われることから、味だけではなく健康面からも優れている良質な食材である。

ウナギと一口に言っても、その種類は世界で20弱に及ぶ。日本のニホンウナギ以外にも、ヨーロッパウナギやアメリカウナギ、オオウナギ等、大きさも形も異なるウナギが世界各国に生息している。食用に向く種類は限られているが、ウナギは海外でも食べられている魚である。

ウナギが珍しい魚ではないとはいえ、中には国際自然保護連合(IUCN)で絶滅危惧種に指定されている希少な種類もいる。ヨーロッパウナギは「Critically Endangered」(深刻な危機)、ニホンウナギとアメリカウナギは「Endangered」(危機)となっており(IUCN 2021)(※1)、これらは絶滅が危惧されている。ニホンウナギはヨーロッパウナギより、絶滅危惧の度合いは一段階低いが、このカテゴリーにはかつて日本産が絶滅したトキが属している(同)。ニホンウナギがこのトキと同じカテゴリーであることに気づけば、ウナギ好きといえども食べるのに多少なりとも躊躇するであろう。

ニホンウナギの個体数が減少する背景には、密漁や無報告といったいわゆるIUU(違法、無報告、無規制)漁業に起因する問題も複雑に絡んでいる。容易なことではないが、自然のウナギを保護することは極めて重要である。それでは養殖すればよいのではないかと思うかもしれないが、すでに日本で生産されるウナギは養殖がほとんどである。自然の稚魚(シラスウナギ)を採捕し、それを育てて成魚にするのである。この養殖方法では、シラスウナギを取りすぎれば成魚の減少につながり、資源枯渇の問題を根本的に解決することにはならない。

そこで期待されるのが完全養殖であるが、実は技術的には国内ですでに成功している。コストの問題が避けられないものの、2019年11月には近畿大学が4年後の飲食店での提供を目指す記事が見られていたことを思えば、商用化される日はそう遠くないのかもしれない。資源保護のためにも、ウナギ好きが躊躇なく食せるようになるためにも、そんな日が早く来るとよいと思っている。

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