投資に動き出した若年層で芽生えるFIREの機運
2021年06月21日
コロナ禍で若年層の投資参入が増えているとよくいわれるが、どうやらコロナ禍以前から若年層は投資に動き出していたようだ。総務省「2019年全国家計構造調査」では、前回の調査時点(2014年)(※1)よりも若年層でリスク性資産保有が進んでいることを確認できた。下図では5歳区分で有価証券の保有率を示しているが、「30歳未満」や「30~34歳未満」において有価証券保有率が特に上昇していることがわかる。
2019年調査時点で「30歳未満」や「30~34歳未満」の世代は、新卒入社以降を投資開始時期と仮定した場合、一部を除いてリーマン・ショック後が投資開始時期となることから、投資に対する恐怖心が比較的薄い可能性がある。そのような中、つみたてNISA導入等の税制優遇制度の整備や、FinTechを活用した投資促進策等の地道な取組みが行われたことで、投資に踏み出す若者が増えてきたとみられる。
若年層が投資を行う目的・動機は何だろうか。日本証券業協会の調査(※2)によれば、有価証券の購入目的として、20~30代は「老後の生活資金のため」が最も選択されている(55.3%、複数回答)。やはり、老後不安は投資を行う大きな動機になっているのだろう。しかし、若年層の間でそれ(老後不安→投資)とはやや異なる動きも出てきているようだ。
最近よく見聞きするのは、FIRE(Financial Independence, Retire Early、経済的自立・早期リタイア)という考えが(一部の?)若年層に注目されている、という話である。投資等を活用して資産形成を行い、経済的自立の見込みが立ったら早期リタイアし、リタイア後は資産運用の運用益等をもとに生活していくというシナリオだ。早期リタイアといっても、FIREではシャンパン片手にラグジュアリーな生活を送ることを目指すわけではなく、生活するための労働に縛られず、自分らしい生き方をすることに主眼が置かれているようだ。「現役期に資産運用して、退職後も運用で資産を増やしながら取り崩しを行う」という行動自体は、従来のライフサイクルを想定した議論でいわれていることであり、特段目新しいものではない。また、①お金がなくても楽しめるコンテンツが増えた②リタイア後に働きたくなったらフリーランス等で働ける、といった外部環境の変化はFIREを非現実的ではないと思わせる要因なのだろう。
現在、実際にFIREを意識して資産運用をしている人は少数かもしれないが、「老後不安で若年期から投資を行っていたが、いつの間にか早期リタイアを考えるようになった」となる人は今後出てくるのかもしれない。若年層に生まれた種火が育っていくのか、注目していきたい。
(※1)前回調査は「平成26年全国消費実態調査」を指す。全国家計構造調査は全国消費実態調査から全面的な見直しが行われている。そのため、2014年の結果は2019年調査の集計方法をもとにした遡及集計結果を用いている。
(※2)日本証券業協会「個人投資家の証券投資に関する意識調査」(2020年)
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

- 執筆者紹介
-
ニューヨークリサーチセンター
研究員(NY駐在) 藤原 翼
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日