ファンタジーと現実の間に
2021年05月24日
2020年代前半、我々は、いよいよ長年のロマンに接近することができそうだ。巣ごもりを余儀なくされる中、しばし、ロマンとファンタジーの世界で何かを発見する時間があってもよい。文学の想像力は、個々の思考を超え、時に、未来へのヒントを見せてくれるものだ。
2016年から木星探査を続けてきたNASAの探査機ジュノーのミッションが延長された。ミッション延長は2018年に次いで2回目となるが、今回は、木星本体ではなく、周辺の大型衛星や木星リングの調査が中心となる。
その大型衛星の一つに、生命存在の可能性が指摘されているエウロパがある。
エウロパと聞いて、筆者のロマンを掻き立てる源は、「2001年宇宙の旅」から始まるアーサー・C・クラークの宇宙の旅シリーズである。シリーズ2作目の「2010年宇宙の旅」では、木星の衛星エウロパは水棲生物などが生息する謎めいて、かつ、近づきがたい星と設定されている。その後、エウロパは、高度な知性を持つ異星生命体によって生物進化の戦略的な領域とされ、モノリスによって太陽化された木星の働きで生命進化が促される。シリーズは、2061年、3001年へと続く。
実は現実世界においても、2000年に氷の殻の下に全球規模の塩水の海が存在する可能性が指摘されるなど、今では、エウロパは太陽系において最も生命存在の可能性が高い天体とされている。「2010年宇宙の旅」が刊行されたのは1982年であり、2000年は20年程先の未来であった。その序文では、前作「2001年宇宙の旅」を引き合いにして「自然が芸術を模倣した、薄気味悪いような事例がいくつかある」と豪語しているが、エウロパの生命存在可能性こそが最大の薄気味悪い事例ではないだろうか。もっとも、著者がどう思ったかは、残念ながら今は確かめるすべはないが、その未来を想像する洞察力に我々は驚嘆せざるを得ない。
さて、探査機ジュノーは、2025年まではエウロパを含む木星周辺の探査を続け、ミッションを終えることになる。そして、次の段階としてエウロパ・クリッパー計画が予定されている。この計画は、エウロパの構造をより丹念に調査し、生命存在の可能性を解き明かすことを目的としている。
とは言え、しばらくはエウロパに着陸して探査することは避けなければならないだろう。「2010年宇宙の旅」の最後に人工知能HALが警告している。
「これらの世界はすべて、あなた方のものだ。ただしエウロパは除く。決して着陸してはならない」(※1)
参考文献:「2010年宇宙の旅(早川書房)」伊藤典夫訳(1984)
(※1)エウロパ・クリッパー計画の先に、既にエウロパへの着陸探査に向けた研究や技術開発も進められている。
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- 執筆者紹介
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マネジメントコンサルティング部
主任コンサルタント 神谷 孝
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