世界の成長と日本のポジショニング

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2021年04月27日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主席コンサルタント 太田 達之助

新型コロナウイルス対策としての大規模な財政支出・金融緩和を背景に、株高が進んでいる。日経平均株価は一時30年ぶりに3万円台を回復し、株式時価総額は700兆円超と30年前の1.5倍になった。

世界に目を向けると株価の上昇は凄まじい。世界の株式時価総額は、1990年の9.4兆ドルから、直近では106兆ドルに膨れ上がった。実に11倍である。その結果、世界の株式時価総額に占める日本の株式時価総額の比率は、30%超から6%以下に大きく低下した。

GDPの推移はどうか。日本のGDPは、1990年の約470兆円から2020年に約540兆円と15%程度増加した。この間に世界のGDPは4倍以上となり、世界のGDPに占める日本のGDPの比率は、15%以上から6%以下に低下した。日本はGDPで米国・中国に次いで世界第3位の地位を保っているが、これは日本の人口が多いことが大きな要因だ。先進7か国(G7)で比較すると、日本のGDPと人口は米国に次ぐ2位である。人口要因を排除するために、1人当たりGDPで比較すると、日本は先進7か国中最下位(※1)に転落している。1人当たりGDPで世界トップレベルにあったのは、遠い昔の話である。

「鉄は産業のコメ」「鉄は国家なり」。かつて鉄鋼産業の力は国の力だといわれた。日本の粗鋼生産量は、1980年代後半には米国・旧ソ連を抜いて世界トップであった。その後1996年に中国に抜かれ、2020年には強力に設備の拡張を進めた中国の12分の1以下となった。最近では高炉の休止も相次いでおり、地域経済に深刻な影を落としている。 

「貿易立国・日本」。1973年にコンテナ取扱量で世界1位だった神戸港は、震災被害を乗り越えて2017年に過去最高の取扱量を更新した。ところが、世界の港湾の成長は桁違いで、ランキング1位の上海港は神戸港の約14倍、2位のシンガポール港は神戸港の約12倍のコンテナ取扱量を記録した。直近年度では、スーパー中枢港湾に指定されている京浜・阪神4港のコンテナ取扱量合計でも、上海港の3分の1にも満たない。ちなみに中国の上位4港と比較すると、9分の1という結果になる。

これらの事実からわかることは、日本が失われた30年といってあまり成長できなかった間に、世界が文字通り桁違いの成長を続けているということである。その結果、世界における日本の相対的地位が大きく低下してしまった。

急成長を続ける世界経済であるが、成長には光もあれば影もある。地球規模での環境汚染や温暖化の進行は成長のひずみといえる。日本でも急速な成長を遂げていた1970年前後には、大気汚染や水質汚濁といった公害問題が頻発した。しかし、日本は公害問題に真摯に取り組み、意識改革や技術革新によって克服した。その後の石油ショックに対しても、世界に先んじた省エネ技術の開発により、環境にやさしい成長を主導した。

日本で生活していると、急速な経済成長や深刻な環境破壊といった事象がイメージしにくいかもしれないが、地球環境を守るためのアクションは絶対に必要だ。これからの時代に求められる技術は、カーボンニュートラルに向けた取り組みである。30年後、2050年カーボンニュートラル達成に向けたグリーンイノベーション技術の開発で、日本のポジショニングが確立されていることを望む。

(※1)1人当たり購買力平価GDP 国別ランキング2019年(出所:IMF)。なお、本稿執筆中に発表された2020年速報値では、新型コロナウイルスの影響が大きかったイタリアを抜き、4年ぶりにG7中の最下位を脱出した。

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太田 達之助
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