移動の制約から選択の自由へ

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2021年04月21日

  • 岡野 武志

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2020年の訪日旅行者数は前年の3,188万人から大きく減少して412万人にとどまった(※1)(図表1)。前年に過去最高の4兆8,135億円を記録した訪日旅行の消費額も、20年は7,446億円まで縮小したと試算されている(※2)。移動の制約は国内旅行にも及び、国内旅行者数は前年に比べてほぼ半減し、旅行消費額も前年比5割以下の10兆円足らずに落ち込んだ(※3)。観光には交通や宿泊だけでなく、飲食や小売りなどの幅広い業種が関わるため、観光を軸にした振興戦略に見直しを迫られる地域も少なくない。

図表1:旅行者数と旅行消費額の推移

移動の制約は都道府県間の転出や転入にも及び、20年は東京都を除くすべての道府県で転出者数が前年を下回った(※4)(図表2)。通勤や通学、買い物などの移動も制約され、ICTを活用したテレワークや遠隔授業、電子商取引などが急速に広まった。一方、各地から転入者を集めて人口増加が続いてきた東京都では、転入者数が大きく減少しただけでなく、転出者数が増加している点が注目される。移動しにくい日々が続く中で、大都市に密集する働き方や暮らし方を見直す動きが広がり、移住に関心を持つ人の割合は緩やかに増加している(※5)。

図表2:都道府県別 転入者数・転出者数の変化(2019年-2020年)

政府は近年、「観光」以上「移住」未満の位置づけで、日常生活圏や通勤圏以外の特定の地域と継続的に関わる「関係人口」の創出・拡大を進めている。関係人口は、まちおこしやプロジェクトなどへの関与、就労やボランティア活動などを通じて地域と関わる「訪問系」と、ふるさと納税や地域産品の購入、クラウドファンディングなどを通じて交流する「非訪問系」に大別される。国土交通省が公表した「地域との関わりについてのアンケート(※6)」では、新型コロナウイルス感染拡大前の状況を前提とした質問項目への回答を基に、訪問系の関係人口は約1,827万人に上り、非訪問系の関係人口も250万人を上回ると推計している。

図表3:関係人口の推計

移動の制約が長引く中、オンライン上で交流する非訪問系の関係人口は、以前より増加していると考えられる。オンライン上の交流には、多数の人が容易にアクセスできるため、多様な人に交流の輪を広げやすい。テレワークや兼職・副業、遠隔での教育・医療などの環境が充実すれば、オンライン上でファンになった人たちは、コロナ禍が収束した後に地域への訪問や滞在、移住などを選択しやすくなる。移動の制約に伴う変化が、時代に合わない仕組みやルールを見直すきっかけとなり、選択の自由を広げる変革に結び付くことを期待したい。

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