導入から8年を迎えた量的・質的金融緩和

財政と金融の関係が今後の焦点

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2021年04月05日

2021年4月4日、量的・質的金融緩和の導入から8年を迎えた。導入当初は2年で2%の物価安定目標の実現を目指していたが、依然として目標達成の目途は立たない。もっとも、デフレではない状況を実現したことは確かであり、量的・質的金融緩和は2016年9月の総括検証や2021年3月の点検(以下、3月点検)を経て枠組みが見直され、持続性の強化と政策効果の向上が図られてきた。3月点検後には「貸出促進付利制度」が導入され、マイナス金利の深掘りによる金融機関への悪影響を緩和することが期待されている。以下では政策変更の目玉ともいえるこの制度のポイントを3点指摘したい。

第一に、マイナス金利の深掘りを通じた金融緩和の余地が拡大した。これにより、今後起こり得る一層の長期金利上昇圧力や「有事の円買い」等の外生的なショックへの耐性が高まったといえよう。第二に、追加緩和のオプションが増加した。貸出促進付利制度では3つのカテゴリーが用意されているが、各カテゴリーへの付利金利の水準と対象となる資金供給は金融政策決定会合で決定される。このため、日本銀行はマイナス金利の引き下げ以外にも、カテゴリーⅠの付利金利水準の引き上げや、各カテゴリーの対象となる資金供給の範囲の拡大などを通じて貸出の増加を促す(結果として金融緩和の効果を高める)ことが可能となる。

第三に、金融政策の“財政政策化”が進むリスクがある。貸出促進付利制度の対象となる資金供給は金融政策決定会合で決定されるが、特定の政策目的を支援するためにこの資金供給が利用されるようになれば、物価安定目標に資する可能性はあるものの、財政政策としての色合いが濃くなる。近年、財政政策と金融政策の境界は曖昧になってきており、例えばECBによるグリーンボンドの購入に関してこの点が議論となっている。

2%の物価安定目標の達成のために政府と日本銀行が一体となって取組を進めることは重要だ。だが日本銀行が財政政策の領域に足を踏み入れるほど、金融市場における資源配分に歪みを生じさせ得る。こうした不均衡の蓄積を極力抑え、2%の物価安定目標に資するよう貸出促進付利制度を運用していくことが日本銀行には求められる。財政政策と金融政策の関係性は古くから議論されているが、貸出促進付利制度という新しい制度が両者の関係性を今後どのように変化させるかは注目に値しよう。

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久後 翔太郎
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 久後 翔太郎