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本当に「ジョブ型」が良い?

2021年04月01日

金融調査部 金融調査部長 児玉 卓

「ジョブ型」が良い。そういう声を耳にすることが増えている。働き方、雇用システムの問題である。少し、これについて考えてみたいのだが、結論を先取りすれば、「ジョブ型」の良さについて、私はかなり懐疑的である。もっともそれは、「ジョブ型」というシステムそのものが悪いという意味ではない。その良さを生かす素地が日本にあるかについて楽観的にはなれない。そういうことだ。

特に最近目立つのが、コロナ禍で浸透に拍車がかかったテレワークでは、勤務態度や仕事のプロセスを可視化することが難しいため、成果と評価とのリンクが曖昧な「メンバーシップ型」から「ジョブ型」へのシフトが進む、進むべきであるという声だ。

本当だろうか。本当だとして、その「シフト」はそもそも望ましいことなのだろうか?

欧米などでの一般形である「ジョブ型」にあっては、働き手は一つの職務を複数の企業で経験する。その職務の質と、職務上の経験やスキルが報酬を決める。一方、「メンバーシップ型」では一つの企業で複数の職務を経験する。大企業を中心とした現在の日本の雇用の在り方だ。ここでも報酬は職務やそこでの経験等と全く無関係に決まるわけではない。しかし例えば、営業職を10年務めたのちに人事部や管理部門に異動になるといったことが日本企業では当たり前のように起きる。とはいえその時、彼(彼女)の給与が人事部の新人と同等に下げられたりすることはない。つまり、その時々の働き手の成果や生産性が、賃金と乖離することを容認するのが「メンバーシップ型」雇用の特徴だということだ。そしてそれが容認されるのは、個々人の成果が「長期的」に報酬に見合っていればよいとする前提があるためだ。「メンバーシップ型」雇用は長期雇用(や年功賃金)と分かちがたく結びついたシステムだということである。

「ジョブ型」へのシフトは、この前提を崩す。ジョブ・ローテーションなどは過去の遺物になる。長期雇用が当たり前ではなくなる。労働市場の流動性が高まることは必ずしも悪いことではないが、流動性が高まれば転職のコストが低下し、ますます流動性が高まるというサイクルが生まれることにもなろう。それらは一体何を帰結するのであろうか。

各人が一つの職務に注力し、経験を積むことで人的資本の価値が高まり、経済全体としての生産性が向上するのだろうか。これと並行して(職務に紐づく)同一労働・同一賃金が定着し、賃金格差が縮小するとともにワーキングプアが減少して、社会の安寧が確保されるのだろうか。

こうしたポジティブな効果が起きる可能性を否定するものではない。だがより高い確度で起こりそうなのが、「雇用システムからの教育の排除」ではあるまいか。一種の「合成の誤謬」が起きる可能性が高いと思われるのだ。長期雇用が前提ではなくなった時、企業が若い働き手を教育するインセンティブは大きく損なわれる。企業からすれば流動性が高まった労働市場で即戦力を雇った方がよほど合理的である。そうした個々の企業の合理的な行動が全体としての人材育成の不在と人的資本の劣化につながるのではないか。

格差是正の効果についても疑ってかかるべきかもしれない。「ジョブ型」へのシフトに従って企業内教育が衰退すれば、企業外の人材育成の相対的重要性が高まるのは無論だが、その中心は学校教育ということになろう。となれば高卒、大卒、大学院卒の所得格差が明確化、固定化する可能性が高いのではないか。企業が即戦力を重視する結果、欧州諸国などで問題になっているように、若年層の失業率が「構造的に」高くなる可能性も低くはない。これも格差是正の障害になる。

日本の雇用システムに是正すべき点が多々あることは否定しない。かねての「働き方改革」についても、その「考え方」は概ね間違っていないように思われる。しかし当たり前だが、雇用システムは「システム」である。ボルトを一本引き抜けば全体が壊れる。システムが機能しなくなる。患部だけをきれいに取り除くような神の手的手術は不可能だと考えるべきだ。本当に「ジョブ型」が良いのか、慎重な見極めと副作用を考慮した導入が必要だろう。といって、個々の企業が慎重に、合理的に行動しても問題は解決しないのだが・・・

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児玉 卓

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金融調査部
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