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企業は女性管理職比率目標の公表を

SDGsゴール5「ジェンダー平等」の実現には積極的な「ポジティブ・アクション」が必要

2021年03月30日

柿沼 英理子

2021年3月に電通総研が公表した「ジェンダーに関する意識調査」によると、企業の女性管理職比率が30%になるのは何年後か、という質問の平均回答値は約25年後であった。

女性管理職比率が低い理由としてよく耳にするのは、将来の管理職候補になる女性が増え始めたのは最近のことであり、管理職の昇進まで時間を要する、また、女性の昇進意欲が低い、等である。しかし、女性の登用が進んでいない背景には、従業員全体のジェンダー平等に対する意識や、女性従業員の自主性だけでは解決できない構造的な問題がある。

アメリカでは、女性の高等教育や雇用が進んでも、経営トップに占める比率が低いことを受けて、1980年代から「ガラスの天井」(経営トップの座は見えているのに、見えない天井に阻まれて手が届かないこと)という言葉が使われ始めた。「ガラスの天井」の手前では、「水漏れパイプ」(就業時点では女性が一定数いたが、管理職まで進むにつれ女性が少なくなる)現象が起きているとされる。

日本では、メンバーシップ型雇用において従業員の評価項目の1つとして「潜在能力×定着率(勤続年数)」の存在が指摘されている(※1)。統計的に女性の勤続年数が低い傾向にあるため、リスク回避的な観点から個人の評価において女性であることがマイナスに影響したり(統計的差別)、潜在能力の評価基準が曖昧であることから評価者のバイアスが無意識のうちに反映される可能性がある。

また、ある集団において女性が少数であるとき、彼女の意見は「女性を代表する意見」として象徴(トークン)的に多数派から受け止められるという研究がある。女性の比率が3割(クリティカル・マス)を超えたあたりから、女性の中でも多様な意見があることが理解されるようになり、組織文化が変わってくるという。

これらのことに鑑みると、従前の取り組みのまま管理職候補となる女性の出現を待っているだけでは、現状を打破することは困難であるといえる。そのため、企業にはより踏み込んだポジティブ・アクション(「社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者に対して、一定の範囲で特別の機会を提供することなどにより、実質的な機会均等を実現することを目的として講じる暫定的な措置」(※2))をとることが求められる。

まずは女性管理職比率の目標を公表し、実効的な行動を取ることを提案したい(※3)。現在、女性活躍推進法に基づき、一定規模の企業は数値目標と取組を盛り込んだ行動計画を策定し、各都道府県の労働局への届け出と従業員への周知、基本情報の公表が求められている。しかし、数値目標自体の公表義務はなく、達成も努力義務である。

SDGsが浸透する中、企業も2030年までのあるべき姿を踏まえたバックワードキャスティングな目標を立て、これに基づく行動を取ることが求められている。目標を示すことで、現状女性管理職比率が低い企業であっても、従業員や就職を考えている学生、投資家等のステークホルダーに対してコミットメントを示すことができる。業種によっては採用時に女性を確保することが難しいケースもあるため、目標期間に対して、野心的だが非現実的ではない数値を設定することが重要だ。併せて、これまで曖昧で評価者の主観に委ねられるところが大きかった評価基準の見直しも必要だろう。

女性に対するポジティブ・アクションは、表面的には女性に対する優遇措置だ。しかし、先述の通り、マイノリティとマジョリティの間には一種の「権力構造」がある。先の電通総研調査において、職場で「男性の方が優遇されている」と答えた割合は、女性(70.2%)の方が男性(48.8%)よりも約21%高かった。この差異は権力を代表するグループ(マジョリティ)に属する人々が、優遇を受けていることに対して無自覚となり得ることを示している。こうした構造的な問題を打破するための暫定措置としてポジティブ・アクションは有効性が高いといえよう。

(※1)脇坂明(1998)『職場類型と女性のキャリア形成 増補版』御茶の水書房
(※2)内閣府男女共同参画局ウェブサイト
(※3)目標の設定にあたっては、男女雇用機会均等法に違反しないよう留意する必要がある。

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