EUが気候変動分野をリードしているのは本当か

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2021年03月15日

  • 田中 大介

台風や豪雨といった異常気象による被害が深刻化するなど、気候変動が世界的に問題となっている。それ自体に異論はない。ただ、各国の関連施策が温室効果ガスの排出削減などの気候変動「緩和」策へ過度に傾斜しているように感じるのは筆者だけだろうか。

気候変動対策は、緩和策と適応策に大別できる。前者はCO2をはじめとする温室効果ガスの排出削減を行うことで気候変動という事象を緩和することを、後者は気候変動が引き起こす自然災害などによる被害を減じることを目的とするアプローチである。このうち、緩和策では2015年に合意されたパリ協定をはじめ、主要国で排出権取引制度や炭素税などの導入が実施・検討されている。一方、適応策はCOP25(気候変動枠組条約第25回締約国会議)でようやく議論が本格化したという段階である。SDGs(持続可能な開発目標)の目標にも掲げられているように、気候変動が世界全体の問題であるという認識にもかかわらず、適応策についてはパリ協定のような世界共通のコンセンサスを採択するに至っていない。

本来、気候変動による影響を減じるにはバランスよく両対策を行うことが求められる。2018年10月にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が公表したGlobal Warming of 1.5℃(1.5℃特別報告書)(※1)によると、産業革命以前から現在までに人為的に排出された温室効果ガスによる温暖化は、数百年から数千年単位で持続し、これに起因する長期的な変化も継続することが示唆されている。よって、緩和策の導入有無にかかわらず、昨今の気温上昇は長期にわたって継続すると解釈でき、適応策の重要性が緩和策と同等以上であると考えるのが自然だろう。とすれば、国家の気候変動対策とは、緩和策と適応策の双方から評価されるべきなのではないだろうか。

適応策のわかりやすい例として強靱なインフラ構築などが挙げられる。これに関する日本の代表的な取り組みが国土強靱化基本計画だろう。国家のリスクマネジメントの一環として防災・減災に取り組むものとして、2014年に初めて閣議決定された。2018年に見直しが行われたが、一貫して気候変動の影響を踏まえた治水対策など、適応策に相当する内容が盛り込まれている。つまり、適応策が国際的な議題となる以前から、日本は世界に先駆けて適応策を検討・実施してきたということである。加えて、2020年12月に公表されたインフラシステム海外展開戦略2025では、日本が今まで以上にインフラ輸出(防災インフラも含む)を目指すとしており、世界共通の課題である気候変動への適応について、技術面で協調・貢献できる数少ない国家と言えよう。

気候変動対策ではEUが世界をリードしているとする論調が一般的と見受けられるが、それは緩和策に焦点を当てた場合の話である。適応策、特に防災面を考慮したハードインフラにおいては、災害大国であるがゆえに、日本が世界に先駆けて取り組んでいると言えよう。また、緩和策においても、菅首相の所信表明演説(2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言)やグリーン成長戦略の策定など、日本もEUに劣らない目標・施策を打ち出している。各国の気候変動政策を緩和・適応の両対策から評価すれば、真に気候変動分野をリードしているのは日本なのかもしれない。

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