新型コロナ収束にともない英国はもうすぐマスクが不要に
2021年03月03日
「271日」
この数字は、ロンドンにおいて、昨年3月23日のロックダウン開始からの1年間で(3段階のTier規制を含め)、社会生活や経済活動に何かしらの制限措置がかかっていた日数である。筆者を含め英国に住む人の多くは1年間の大半を、旅行や出勤はおろか、外出すらまともにできずに過ごしたことになる。
ただ遂に英国もコロナ禍からの出口が見えてきた。イスラエルを除けば先進国で最速のペースで接種を実行したワクチンの効果も大きく、ジョンソン政権は、1月5日から続く3回目のロックダウンの解除戦略文書を2月22日に公開した。長く公開が待たれた同文書は、厳格な社会的距離を確保する措置を4カ月かけ、4ステップに分けて解除していく方針を示すものである。
同文書によると、3月8日から始まるステップ1の第一段階では、学校の通常授業が再開され、世帯間の交流は屋外で1対1なら可能となる。さらに3月29日よりステップ1の第二段階が始まり、このタイミングで遂に不要不急の外出を避けるという「Stay at Home」の指針が終了となり、二世帯または6人までが屋外で会うことができるようになる。ただ、在宅勤務を奨励するという方針は変わらない。
必需品以外の品物を扱う店舗の営業が再開されるのは、4月12日以降のステップ2である。このタイミングでジムやテーマパークなども再開され、レストランも屋外での営業が解禁となる。ちなみに、筆者が、このタイミングで心待ちにしているのは、パブに行くことやスタジアムでスポーツ観戦することではない。ずばり理髪店に行くことである。昨年から続く営業規制にともない、伸び放題になっている髪は、20数年前の学生時代に、大流行した某男性アイドルの髪型に便乗したとき以来の長さとなっている。さらに社会的接触に関する法的な制限が全て解除されるステップ4は、6月21日以降が予定されている。このタイミングで、遂に店内でのマスク着用の義務もなくなり、英国人のお決まりの挨拶であるハグやキスも解禁される。
ただ多くの英国人が待ち望んでいるギリシャやスペインなどへの夏休みの旅行に関しては、まだ時間がかかりそうだ。不要不急ではない海外渡航が解禁されるステップ3は5月17日以降のタイミングを予定しているが、ハンコック保健相は、南アフリカおよびブラジル変異株に対し、(既に2,000万人以上に1回目を接種している)現行ワクチンの予防効果が認められなければ、海外旅行の緩和はより難しいものになると発言している。無論、効果がなければ、新たに予防効果を発揮するワクチンを利用し、再び全人口への接種プログラムを展開しなければならなくなるとも警告している。
ジョンソン首相は2月22日に下院での声明にて、次のステップに進むにあたり慎重に判断することで、いったん解除した措置を再導入するような事態には陥らないとの決意を示した。しかし、コロナ危機によって12万人以上の命が失われた英国が本当にわずか4カ月でマスク不要の社会に戻れるかどうか、英国民の多くが疑問に思っているだろう。コロナ危機を通じ、結果的に頻発したジョンソン政権の戦略Uターンには、筆者も含めて英国民は慣れっこになりつつある。そのため、もう一度ロックダウンが起こっても、もはやだれも驚かなくなっているのではないだろうか。
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