長生き社会と向き合う

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2021年02月04日

  • 佐藤 清一郎

様々な生活インフラが整備され、モノが溢れるくらい多く食品ロスが叫ばれる時代、そして、医療技術の向上。こうした様々な要因により日本人は豊かさを手に入れ、平均寿命は、年々延びてきている。喜ばしいことではあるが、一方で、想定外に長生きすることで資産が目減りして困窮する人や予想外の医療・介護などへの出費により生活設計に狂いが生じている人も少なくない。マクロ的に見ても、経済活動における、年金、医療、福祉、介護などの社会保障給付費の割合は、年々増加の一途を辿りGDP全体の2割を超え、また、国家予算においても、医療や介護などの社会保障関係費の割合は3割を超えている。平均寿命が延びていることからすると、経済活動における社会保障関連の割合は、今後も高まる方向で推移することが避けられない。

医療や介護という話は、高齢者がより直面することであり、生活面での不安も絶えない。というのも、現役世代をリタイアした高齢者を取り巻く環境は、以前と比べると、かなり異なってきているからである。1991年のバブル崩壊以前の日本経済は、国際化の進展なども追い風に企業は新規市場の開拓に成功して先行きへの明るい未来が描ける時代であった。企業業績は好調で、毎年、賃金が伸び、年間給与も増加して、現役時代で、ある程度の貯蓄を蓄えて定年を迎えることができた人は多かったはずである。そのため、労働市場から離れてからも、金利収入もあてにしながら、旅行、娯楽などをしながら老後を楽しむことができた。ところが現在は、急激なグローバル化の進展や新興国の追い上げなどにより、日本企業は、厳しい価格競争に晒され、競争力維持のため、かつてほど賃金を思うように上げられない事態が長く続いている。また、デフレ経済の長期化でゼロ金利が続き金利収入を期待できなくなっている。

人々の努力で、せっかく手に入れた長生き社会なのに、そのことが、人々に将来不安を生じさせるという、ある意味、皮肉な結果となっている。しかし、長生き社会が悪いわけではなく、それを裏付ける経済面の不安に問題がある。経済を持続可能な成長軌道に戻し適正な賃金上昇率を確保できるような環境を手に入れることができれば、現役時代にある程度の貯蓄が可能となり、金利収入などにより老後への不安は和らぐであろう。しかし、残念ながら、それは容易でないことは、過去20年以上にわたる挑戦の中で、わかってきている。

こうなると、高齢化社会の老後問題は、構造問題化してしまうが、それでも、何らかの工夫をして、できるだけお金がかからないような仕組みを作れる可能性は残っている。医療や介護など増え続ける社会保障関係費の分担割合をどうするのかは最重要問題として残るが、それ以外でも、身近なところで、高齢者の老後生活をサポートできそうなことはある。負担感の大きなものは、住居費や車所有であることを考えると、例えば、高齢者が安価に住めるような公共住宅施設の整備(新設及び既存施設の再利用)、必要性の高い場所を吟味した上で、乗り合いバス、デマンドタクシー(乗り合い型タクシー)などの交通手段拡充、役所手続き、買い物、病院などの用事が狭い範囲で完結できるような工夫を凝らしたコンパクトシティ開発、高齢者向けにデジタルデバイド回避のための研修機会などを設けながら、場所を移動しなくても物事が済むような環境整備(行政手続きの電子化、オンライン診療、インターネットショッピングなど)などである。このような超超高齢社会にマッチしたインフラ整備が進めば、高齢者側には、日常生活における不安軽減、自動車運転操作ミスによる事故防止、徒歩の時間が増えることによる健康維持・増進などの効果が期待できる。現役世代側には、将来不安軽減で、過度に貯蓄性向を高める必要がなくなり、消費促進効果が期待できる。

時代時代によって必要とされるインフラの種類は異なる。1970年代は、経済に勢いがあり、「日本列島改造論」に象徴されるように、交通網・情報通信ネットワーク拡充などによる成長のボトルネック解消が求められた。低成長で高齢者割合が増加方向となっている今の時代は、長生き社会と向き合える、高齢者目線でのインフラ整備の拡充が求められる。

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