皆で意識すれば誰もが活躍できる社会に前進できる
2020年12月29日
2020年は、新型コロナウイルス一色の、とんだ1年だった。ウイルスとの闘いは年をまたぐことになり、引き続きの大問題であるのは間違いない。ただ、あらゆる人々がコロナ対策について熱心に議論し行動しているから、事態はいずれ収束すると信じられる。皆が強く意識している課題は何とかなるはずで、警戒しなければならないのは、意識されていない課題が人々の幸福を気づかないうちに奪うことだ。
新型コロナウイルス感染症による日本の死亡者数は12月24日時点で累計3,050人であるのに対し、2020年4~11月の自殺者は14,219人である。自死された方の理由は様々だが、その期間の自殺者数の前年比は男性が▲1.1%であるのに対し、女性が19.6%と違いが際立っている。コロナ禍は、特に社会的立場の弱い人々に襲いかかっている証左だろう。
12月25日に閣議決定された「第5次男女共同参画基本計画」では、新型コロナウイルス感染症の拡大が女性の雇用や所得に悪影響を及ぼしていたり、暴力被害を増加させていたりするという指摘に加え、新型感染症の拡大の性別による影響やニーズの違いを踏まえて今後の政策を進める必要性が強調されている。
11の分野にわたって記述された第5次基本計画は、2021年からの5年間を対象とするものだ。約130頁に及ぶ大部な計画だが、今回焦点となったことの一つは、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%にするという目標が未達となったことだった。この目標を掲げたのは2003年のことである。17年かけても実現しなかった根本的な原因は、それを皆があまり意識していなかったからだと考えられる。
この点、新しい計画では、「2020年代の可能な限り早期に30%程度となるよう目指して取組を進める」とされ、これを単なる先送りだと批評する向きもある。だが今回、「その水準を通過点として、(中略)30%を超えて更に上昇し、2030年代には、誰もが性別を意識することなく活躍でき、指導的地位にある人々の性別に偏りがないような社会となることを目指す」という、はるかに志の高い新たな政府目標が掲げられた。
数字上だけではなく実質的にそうした社会を実現するには、エビデンスに基づいた施策を科学的視点にたって打っていく必要があるが、その大前提として、どれだけ多くの人がその目標を自分のこととして意識できるかが施策の実効性を左右する。働き方や暮らし方が大きく変わり、社会のデジタル化が急速に進んでいく中、どうすれば経済や社会にイノベーションが生まれるかを考えれば、性別とは関係なくチャレンジできる環境を皆で作らなければならない。様々な場面でみられている男女間の格差を放置したままでは、男女ともに生きづらくなり、経済社会の持続性は損なわれていくだろう。
諦める必要はまったくない。例えば、最近、いわゆる夫婦別姓に関する制度の在り方について、これまでになく活発かつ具体的な議論が各方面でなされるようになっている。それぞれの考え方や立場に違いがあるのは当然である。重要なことは、課題があるならアイデアを持ち寄り、十分に議論した上で合意できる結論を導き出すことである。2020年は見えていなかった多くの課題をウイルスが我々に気づかせた1年だったとすれば、2021年は世の中を前進させる1年となることを願う。
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