国勢調査100年から考える統計の未来

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2020年10月20日

今年は国勢調査が開始されてちょうど100年目にあたる節目の年だ。1920年(大正9年)に原敬内閣の下で第1回の国勢調査が開始されて、その後、第二次世界大戦により中止された1945年(昭和20年)を除けば(1947年(昭和22年)に臨時調査実施)、国勢調査は5年毎に実施されている。

第1回目の国勢調査の実施時は、調査趣旨の徹底と宣伝のために、唱歌・和歌・都々逸・数え歌などの入った『国勢調査宣伝歌謡集』が刊行・頒布され、中には街中を練り歩く宣伝隊が結成された地域もあるなど、国を挙げての一大イベントだったようだ。また、国勢調査のために調査区を担当する国勢調査員は名誉ある職位とされ、担当者には国勢調査記念章が授与されるなど(※1)、一種のステータスとなっていた。

しかしながら、近年、政府による公的統計の実施は次第に難しくなっている。今年の国勢調査は新型コロナウイルス感染症の影響もあるが、回答期限が当初の10月7日から20日まで2週間近くも延長された。国勢調査のような全数調査ではない標本調査についても、近年はその回答率が年々低下していることが問題となっている。特に、複数の類似統計が存在する場合、同じような内容の記入を求められるために、企業などの報告者にとってその負担は重くなりやすい。実際、日本商工会議所・日本経済団体連合会・経済同友会の加盟企業を対象にした行政手続の負担に関するアンケート調査(※2)でも、営業の許可・認可、社会保険、納税、補助金といった行政手続に次いで、「調査・統計に対する協力」の負担が大きいと指摘している。

現在の公的統計が直面する大きな課題の一つは、こうした統計の報告者負担の重さをいかに軽減するかという点が挙げられる。これは日本だけでなく世界でも直面している課題である。その対策として例えば、日本では2010年の国勢調査においては東京都のみ、2015年以降は全国でインターネットによる回答を可能としている。また、2020年9月に発足した菅内閣では、行政手続のデジタル化を進めることが大きな柱となっている。現在、ハンコの廃止が大きな話題となっているが、政府は数年前から規制改革の一環でデジタル化も含めた行政手続の簡素化を進めている。今後はそれが一層前進することが期待され、統計面でも報告者負担の軽減につながる可能性が高いと考えられる。

統計は経済や社会の実態を正確に把握し、必要ならば適切な対策を講じるための材料として必要不可欠なものである。しかし、その実施のために家計や企業に過度な負担をかけることは、貴重な時間の消費や生産性の低下にもつながりかねず、避けられるべきだろう(※3)。そのため、上記のような対策のほかにも、これまで活用事例が少なかった税務統計などの行政データや民間企業が持つビッグデータを新たに公的統計に活用しようとする動きが、世界で始まりつつある(※4)。国勢調査100年という節目と行政手続のデジタル化の議論をスタートとして、日本でもこうした統計に対する新しい取り組みが広がることが望まれる。

(※1)総務省統計局統計150年史編纂室[2020]「統計150年の歩み(2)~人口統計整備の時代(明治・大正)~」『月刊 統計』2020年10月号、一般財団法人 日本統計協会、pp.51-56.
(※2)内閣府規制改革推進室[2017]「事業者に対するアンケート調査の結果の取りまとめ」(平成29 年1 月19 日).

(※4)こうした近年の動きをまとめたものとして、中田理惠・溝端幹雄[2020]「ビッグデータの公的統計への貢献と課題」『大和総研調査季報』2020年秋季号 Vol.40、pp.66-83、がある。

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄