コロナが示す社会保障改革~支え手の拡大だけでは不十分

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2020年10月13日

新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、医療機関の受診抑制や介護サービスの利用控えが懸念されたが、どちらも問題は解消の方向に向かっている。

医療の受診抑制については、診療所を含む医療機関のレセプト件数が、5月時点で前年比▲24.2%と大きく減少したが、統計が取れる直近7月には同▲11.9%まで戻った(社会保険診療報酬支払基金「統計月報」)。また、介護については、そもそも利用控えが見られたのは軽度者の利用が多いショートステイやデイサービスなどに限られ、生活を維持する上で不可欠な重度者向けなどのサービス利用は減少していない (※1)。

受診件数が戻ったり、必要な介護サービスの利用が継続されたりするのは、人々がwithコロナの時代の社会生活に適応してきた証左である。心配されたコロナによる医療機関の経営悪化問題や介護サービス事業所の倒産懸念は徐々に和らいでいくだろう。

一方、医療・介護の費用については、コロナ禍によって緊急性の低い受診や不要不急の介護サービスの利用が減ったことで給付の重点化が進んだという効果も一部にあったと思われる。しかし、withコロナの生活が定着し、受診件数や介護サービスの利用が元通りになれば、コロナ禍以前からあった制度の持続性の問題がむしろ深刻化するだろう。なぜなら、さらなる増加が見込まれる医療・介護の費用の担い手側が、雇用環境の悪化などコロナ禍の影響でひどく疲弊しているかもしれないからである。

労働力調査(総務省)によると、8月の完全失業率(季節調整値)は3.0%と、3年3か月ぶりの高い水準となった。特に、非正規の雇用者数は、前年比▲120万人と減少が著しく、ここにきて企業の雇用調整が本格化していることが窺われる。

労働力人口の長期的な減少が見込まれる日本では、医療や介護などの社会保障制度の支え手をできるだけ拡大することが課題である。その一環として、高年齢者や女性を中心に増加傾向にある非正規の働き手について、短時間労働者の被用者保険への適用拡大が進められている。しかし、コロナ禍によってそうした人々が職を失えば、社会保障の支え手は増えず、制度の持続性が危ぶまれる事態がむしろ強まりかねない。

もちろん、足下では感染拡大を防止しながら経済を改善させ、雇用環境の早期回復に努めることを優先すべきだ。だが、社会保障制度の持続性を高めるには、どのような経済状況となっても制度を維持できるよう、給付と負担の見直しを進めておくことが重要である。団塊世代の後期高齢者入りが目前となった今、「支え手の拡大」と「給付の適正化や公平な負担の実現」のどちらか一方に偏ることなく、バランスの取れた議論が進むことを望みたい。

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執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 石橋 未来