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雇用・所得面から見たアベノミクスは「失敗」だったのか?

2020年09月28日

経済調査部 研究員 田村 統久

2020年9月16日に菅義偉政権が発足した。安倍晋三前首相の辞任表明以降、各方面で前政権の取り組みの検証が行われたが、その主要なテーマの一つが前政権の経済政策である「アベノミクス」だった。

筆者が気になったのは雇用・所得面に関する議論である。第2次安倍政権が発足した2012年12月以降、非正規雇用者が正規雇用者を上回るペースで増加し、雇用者1人当たりの実質賃金は低下した。これらに注目して雇用・所得政策を批判する声が一部に聞かれたが、その評価にはやや違和感を覚える。

雇用者数(役員を除く)は2012年から2019年までに499万人増加した。雇用形態別に見ると、正規が+149万人、非正規が+349万人と、増加した雇用者の7割を非正規が占める。ただし2007年以降減少を続けてきた正規雇用者数がアベノミクス下の2015年に増加に転じ、2019年は18年ぶりの高水準となったことは注目に値する。また非正規側では、「正規の職員・従業員の仕事がない」ために非正規となった者(いわゆる「不本意非正規」)は2019年で236万人と、集計が始まった2013年に比べ105万人減少した。

他方で、2019年の雇用者1人当たり実質賃金は2012年対比▲4.6%と低下しており、それは正規だけでなく非正規でも同様だった(一般労働者:同▲1.8%、パートタイム労働者:同▲4.2%)。だが、ここで留意すべきは雇用者1人当たりの労働時間がそれ以上に減少した点であり、1人1時間当たりの実質賃金(=実質時給)はむしろ上昇した(一般労働者:同+0.9%、パートタイム労働者:同+5.6%)。正規雇用者の労働時間の減少は長時間労働の是正策等によるもので、育児や介護との両立が容易になり、過労死の防止などの効果があったと思われる。

2000年代に経験した戦後最長の景気拡大期を上回る規模で雇用者数が増加したことで、全雇用者の給与等を表す実質雇用者報酬が明確に増加した点も指摘したい。2019年の実質雇用者報酬は2012年対比で+7.8%と、実質GDP(同+7.4%)と同程度に増加した。つまりマクロで見れば、経済全体で生み出した付加価値のうち雇用者に回る割合(労働分配率)は低下しなかった。

このように、雇用・所得面から見たアベノミクスは前向きに評価できる点が多い。だがその一方で、労働生産性は当初の期待ほどには向上しておらず、実質賃金の上昇を妨げる要因となった面がある。また非正規雇用の処遇改善や、副業・兼業等を含む「柔軟な働き方」をしやすくするための環境整備など、道半ばの課題も少なくない。菅政権にはコロナショックへの適切な対応とともに、こうした課題への持続的な取り組みを期待したい。

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