銀行の店舗はそんなに不要なものなのか?

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2020年06月08日

  • 坂口 純也

近年、店舗の削減目標を掲げる銀行が増えている。長引く低金利で収益が伸ばしにくい中、経費の削減は利益を捻出するための重要な手段であり、店舗はそうした流れの中で注目されているトピックの一つである。

たしかに店舗を構えることは、土地や建物の賃借料に加えて設備や人員の配置などコストがかさむ。また、各種手続きのオンライン化も進み、利用客にとって店舗の必要性は過去に比べて低下している。店舗の窓口に最後に立ち寄ったのは数年前という人も少なくないだろう。

筆者も店舗削減の取り組みは経営の効率化に資すると考えられることからおおむね賛同する。ただ、そうした店舗削減に関する発表や報道を見ていて、コストに注目するあまり店舗の持つ意義や機能が捨象されすぎているのではないかと感じることがある。削減される費用は数字で示されるため分かりやすい一方、店舗削減によって失われるものはあいまいで見えにくい。ここでは金融機関の店舗の重要性を明らかにした海外の興味深い実証研究を2点紹介し、あらためて店舗の意義を確認してみたい。

1点目は店舗と企業の空間的な近接性が銀行間の競争に与える影響についての分析である(Agarwal and Hauswald (2010))。同論文は米国の中小企業の借入申込のデータを用い、企業と申込先銀行の店舗との距離を算出して債務者のスコアリングや融資の可否、貸出金利などの変数との関係を分析している。その結果、企業と店舗との距離が近いほど、銀行が企業に関するソフト情報(決算書の数値などのハードデータではない主観的な情報)をより多く蓄積すること、そしてソフト情報が多いほど銀行が借入の申し込みを謝絶する可能性が低くなったり、貸出金利を低くしたりする傾向があることが示されている。つまり、顧客との空間的な距離が近いほど顧客のソフト情報をより多く取得でき、そうした情報が他銀行との競争上有利に働くということである。店舗網がソフト情報という競争の優位性を獲得する機能を果たしているといえる。

2点目は店舗の閉鎖が地域の経済に与える影響についての分析である(Nguyen(2019))。同論文は米国のノースカロライナ州のウェイク郡を対象に、銀行の合併に伴って閉鎖された店舗がある地域に着目して貸出金の変化を分析している。その結果、店舗の閉鎖が行われた地域では、小企業向け貸出が統計的に有意に減少し、その影響が周辺地域(具体的には約6マイル=約10km)まで波及することを示している。つまり、店舗の閉鎖は資金供給の減少を引き起こし、地域経済に悪影響を及ぼす可能性があるということである。著者はこうした結果を、店舗の閉鎖に伴って銀行・企業間の空間的な近接性が失われ、リレーションが喪失ないしは希薄化したためと考察している。

こうしてみると、店舗はコストや利便性に関係するだけでなく、銀行の競争力や地域経済といったより広範なテーマに影響を及ぼす重要な要素であることがうかがえる。特に注意したいのは両論文とも中小企業向けの貸出を分析の対象としている点だ。中小企業向けの貸出は、ソフト情報やリレーションに頼る部分が大きい分、店舗の存在がより重要度を増す。冒頭で述べたように店舗の削減というのが近年の銀行業界の流れではあるが、現時点でのコスト削減を目的とした店舗の削減は、将来時点で競争力の低下や地域経済の停滞として跳ね返ってくるかもしれない。

もちろん、銀行と企業のコミュニケーションの取り方が変化すればこうした研究結果を参考にすることが妥当でなくなる可能性もある。例えば融資や経営の相談が対面でなくテレビ会議システム等で完結するようになれば物理的な近接性の重要性は低くなる。コロナ禍はそうした転換を引き起こす可能性があるようにも思える。

多くの銀行が経営計画で取り上げている店舗改革が将来どのような帰結をもたらすのか、その行方に注目したい。

参考文献
Agarwal, Summit and Robert Hauswald, (2010) "Distance and Private Information in Lending", Review of Financial Studies, 23(7), 2757-2788.
Nguyen, Hoai-Luu Q (2019) "Are Credit Markets Still Local? Evidence from Bank Branch Closings", American Economic Journal: Applied Economics, 11(1), 1-32.

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