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コロナショックで問われる企業の財務戦略

2020年05月25日

経営コンサルティング部 主席コンサルタント 太田 達之助

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、少なからぬ企業の経営が危機的状況を迎えている。中でも人の移動が世界的に封印されたことによって、航空業界の企業は壊滅的な打撃を受けた。

世界最大の航空機メーカーである米ボーイング社(以下ボーイング)も苦境に立たされている。2020年第1四半期決算での約670億円の赤字により、債務超過額は1兆円を突破した。株価は1か月半で7割以上下落、一時は政府に巨額の資金支援を要請するに至った。

ボーイングがここまで追い詰められたのは、財務安全性を度外視して極端に資本効率を追求したことに起因している。ボーイングのROE(自己資本利益率)は、積極的な自社株買いによる資本の圧縮により上昇し、2017年度に683%、2018年度に1047%となり、ついに2019年度には債務超過で算定不能になってしまった。

もっとも、米国の優良企業が債務超過になっているケースは、それほど珍しくはない。時価総額10兆円以上の企業では、小売のホーム・デポ、外食のマクドナルド、たばこメーカーのフィリップモリスなどが債務超過である。これらの企業は景気変動の影響を受けにくく、事業が安定している半面、成長性はさほど高くない。そのため、有利子負債を積極的に活用して資本効率を高めることによって、株価の上昇を狙っているのである。

ボーイングは、上記の企業と比較すると事業リスクが高い。主力旅客機として開発された737MAXが2018年10月と翌年3月に相次いで墜落事故を起こし、乗客乗員全員が死亡した。その結果、737MAXは全世界で運航停止となり、ボーイングの業績に急ブレーキがかかった。2013年にもボーイング787がバッテリー発火問題により、一時的に全世界で運航停止になったことなどを考えると、事業リスクに備えてもっと資本を厚めにしておくべきだったといえる。

昨年8月に米主要企業の経営者団体であるビジネス・ラウンドテーブルが、「株主第一主義」を見直し、従業員や地域社会などの利益を尊重した事業運営に取り組むと宣言した。今回のコロナショックの影響は甚大であり、米国での株主利益偏重の極端な財務戦略は見直されることになるだろう。

日本企業はどうか。近年、海外投資家から株主重視経営への転換を迫られてきたが、まだまだ株主利益を軽視して財務安全性を偏重している企業が多い。米国企業とは対極に位置しているわけである。

本稿執筆時点で前期決算発表がほぼ出揃ったが、コロナショックの中で各企業の配当政策が二極化していることは興味深い。この非常事態がいつ収束するかわからない状況において、どのような優先順位で経営に臨むかで企業のホンネが透けて見えるからである。

実質無借金・過剰資本で過剰なキャッシュを持っていながら、即座に減配に動く企業が散見されるが、これらの企業では株主価値を向上させることの優先順位が極めて低いのであろう。逆に、新型コロナウイルスとの共生が余儀なくされる中で、経営のリスク構造の変化を認識したうえで、増配を継続する企業もある。このような企業は、財務安全性を確保したうえで資本効率向上にも取り組んでいるとみられる。

新型コロナウイルスの感染拡大により経営環境は一変した。社会構造・ライフスタイル の変化が予想されるなかで、中長期的・持続的に企業価値を向上させるためには、自社にとってどのような負債・資本構成が最適であるかを認識する必要がある。

財務安全性を軽視して資本効率のみを追求するでもなく、株主利益を無視してキャッシュと資本を過剰にするでもなく、バランスの取れた財務戦略が求められるのである。

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太田 達之助

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