企業の内部通報件数が増える状況が意味するものは何か

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2019年10月01日

  • 菅原 佑香

内部通報制度に関する認証制度である「自己適合宣言登録制度」が導入された。これは、企業自ら内部通報制度を評価し、制度の信頼性および実効性の確保に関わる認証基準に適合している場合、指定登録機関がそれを確認した結果を登録し、所定のWCMSマーク(Whistleblowing Compliance Management System)の使用を許諾する制度である。2019年2月より登録申請受付が開始され、徐々に登録企業が増えている。

内部通報制度が導入されていたとしても、通報窓口に寄せられる件数が0件の企業は多い。一方で、通報件数が多い状況をどのように解釈すべきなのかという声も聞かれる。法令違反やそれに関わる不満等の問題が多いことにより通報件数が多いのか、それとも通報しやすい社内の雰囲気があることを示すものなのか、どちらの要因によるものなのかということである。

そこで、通報件数を開示している企業の状況から考えてみよう。2019年3月末時点のTOPIX500構成銘柄の各社ウェブサイトに掲載されている報告書等(2018年版の統合報告書/アニュアルレポート、CSR報告書/サステナビリティレポート)を見ると、通報件数が多いことや増えている状況を、制度の認知度を高めるために社内周知などの施策に取り組んだ結果であると、プラスに捉える企業が少なくない。

つまり、制度の認知度を高めるための取り組みを行っている企業なのか、そうでない企業なのかによって、件数が意味するものは変わってくる。企業は通報件数の状況について、不正が実際に存在する可能性や通報しやすい社内の雰囲気、制度の認知度が高いかどうかなどの様々な視点から解釈し、通報された問題への対応を決める必要がある。

内部通報窓口に寄せられる内容は、不正とまでは言えない悩みのレベルの相談も多いという(消費者庁「平成28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書」)。だが、従業員の不満や悩みのレベルであっても、不正に至らないその手前のリスクを把握し、企業に内在するリスクを抑制する意味において通報件数を活用する意義は大きい。事業環境の変化によって、従業員の通報(不満)件数がどこでどう変化しているのか(例えば、どこの事業部でどのように件数が増えているかなど)を把握することは、リスクの所在を「見える化」することになり、有効なリスクマネジメントを検討する手段になり得るだろう。

企業の不正や不祥事に関する報道が増加するなど、コンプライアンス経営の重要性が増している。新しく認証制度が始まり、従業員が通報窓口を利用しやすくなるよう制度の実効性を高めることがより一層求められている。企業の実態に即した不正予防の取り組みや対応が促進されることが期待されよう。

【参考資料】

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