地方銀行、「リスクの抑制」から「ROEの向上」へシフトチェンジか
2019年09月12日
今夏、金融機関(これらを子会社とする持株会社を含む)より、最新のディスクロージャー誌が公表されている。
ひととおり目を通していた折、とある地方銀行を子会社とする銀行持株会社(A社)のディスクロージャー誌の中で、気になる記述があった。それは、向こう3年間の中期経営計画の柱から、「安全性」を外し、「効率性」を重視する、という内容の記述である。
ここでいう「安全性」とは自己資本比率を、「効率性」とは“ROE”(Return On Equity)を指す。
2008年の金融危機から10年以上が経過し、こうした、「リスクの抑制」から「ROEの向上」へのシフトチェンジが金融機関、それも地方銀行から発せられるのは、隔世の感がある。
もっとも、このような「シフトチェンジ」は、何も唐突なものといったわけではない。ここ数年来、地方銀行の収益状況が芳しくないことは、周知の事実である。
そうした状況を受けて、金融庁は、2018年半ばより、地方銀行(及び第二地方銀行)に対し、「安全性」の維持はもとより、地域経済に対して金融仲介機能を継続的に発揮していくことが重要である、という趣旨のメッセージを発し続けてきた。
そして、それを達成するための手段の一例として挙げられているのが、いわゆる「リスクアペタイト・フレームワーク」(※1)の活用である。
金融機関各社のディスクロージャー誌の記載から抽出されたことの一つは、リスクアペタイト・フレームワーク導入の趣旨が「資本効率の向上」にあるということである。
「資本効率の向上」は、ROEの向上と言い換えることが可能である。
先に挙げた、ROEを「効率性」と表現したA社は、そのディスクロージャー誌の記載のみから判断する限り、2019年3月末時点では、リスクアペタイト・フレームワークを導入していない。
そして、そのことと因果関係があるかどうかは定かではないが、A社のROEは、同業の平均を下回っている。
金融機関各社のディスクロージャー誌のみによる限り、A社のような状況にある金融機関、すなわち、「リスクアペタイト・フレームワークを導入しておらず、ROEが同業平均を下回る金融機関」は、全体の過半数を占めている。
とりわけ、地方銀行及び第二地方銀行においてその傾向が顕著である。
地方銀行(及び第二地方銀行)が、前述のような「シフトチェンジ」を行うにあたっては、金融庁の指摘するとおり、リスクアペタイト・フレームワークの活用がカギとなりえよう。
- (※1)「リスクアペタイト・フレームワーク」の概要については、以下の大和総研レポートを参照されたい。
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ニューヨークリサーチセンター
主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光