節約志向が強まる50代・60代の勤労者世帯

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2019年08月19日

  • 山口 茜

家計の雇用・所得環境は改善しているものの、消費の伸びは鈍い。その背景には、世帯主が50代・60代の勤労者世帯を中心とした節約志向の強まりがある。

二人以上勤労者世帯の消費額を「必需的支出」(外食以外の食費や住居費、光熱費、教育費等の生活の基盤となる支出)と「選択的支出」(必需的支出以外の支出)に分けると、50代・60代世帯の必需的支出は概ね横ばいで推移する一方、選択的支出が大きく減少している(図表)。これは30代や40代の世帯には見られない特徴だ。配偶者の有業率の上昇もあって世帯収入が増える中、収入の増加分以上に貯蓄を増やしているということであり、節約志向の強まりを意味する。

選択的支出が減少している主因は「こづかい」だ。こづかいの減少はどの世代にも共通することであるが、30代・40代ではこづかいの減少分だけ他の消費を増やしている。しかし、50代・60代ではこづかいの減少分がそのまま貯蓄に回されている。

金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]」によると、世帯主が50代・60代の世帯が金融資産を保有する目的として「老後の生活資金」や「病気や不時の災害への備え」と回答する割合が高い。ただし最近では、50代では「こどもの教育資金」、60代では「遺産として子孫に残す」の回答割合が上昇している。

子供の教育資金の需要が高まっている背景としては、晩婚化により50代時点で子育てを終えていない家庭が多いことや、高学歴化により子供が教育を受ける期間が長くなっていることなどが考えられる。他方、遺産として残すことを目的とした資産形成を行う世帯が増えているのは、自分たちよりも子世代や孫世代の将来の生活が苦しくなるという悲観的な見方が広がっている可能性が内閣府の研究で指摘されている。

もっとも、世帯主が50代・60代の勤労者世帯の支出を抑制するこれらの要因はいくらか緩和されそうだ。教育費に関しては、保育園、幼稚園、私立高校、大学、専門学校等幅広い子供の年齢に対応した教育無償化策が導入されることが決まっている。また、住宅購入者を対象に贈与税非課税枠が拡大される。この制度を利用して、遺産として子供や孫に残すために積み増されていた貯蓄が贈与され、住宅の購入資金に充てる世帯が増えるかもしれない。

今後、50代・60代勤労者世帯に見られる節約志向がどのように変化していくのか注目したい。

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