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フィルターバブルの再認識

2019年08月08日

経営コンサルティング部 主任コンサルタント 神谷 孝

人と情報、人と人を媒介する空間として、インターネットは、空気のような、あって当たり前の存在である。とは言え、空気のようでありながら、実のところ、それは高度に管理された媒体だ。正確には、今でもインターネット自体は、空気のようであるのだが、利便性や効率性という機能を備えた一部の空間に、人とコンテンツが引き寄せられている状態と捉えることができる。その高度に管理された空間における人とコンテンツの接点の代表例が、検索とSNSである。

例えばあるテーマを調べる場合、目的に沿った必要な調査項目を設定して、それに対して検索により答えに到達する。かつての調査手法は、調査対象のカテゴリーに合った文献をひも解きながら、徐々に、深く分け入っていく作業であった。しかし、今は、ネット上に存在する膨大な情報から有効な結果をピンポイントで探り当てる。従来の調査スキルは、検索スキルに置き換わった感がある。
検索のすごいところは、地理的な壁、媒体の壁を越えることで、これまで埋もれていた情報、従来の調査手法では、とても到達できなかった結果にたどり着くことが可能となった点だ。まさに、情報の「民主化」であり、多少の弊害が無いわけではないが、多くの人が喝采を送った。こうして、情報自体が加速度的に膨張し、複雑化する中、もはやその領域は、人間によるカテゴライズの域を超え、我々は検索という行為から逃れられなくなった。
※そうした中でも、ディレクトリ型検索サイト「Yahoo!カテゴリ」が昨年まで運営されてきたのは驚きである。

一方、日常生活では、情報は、人に向かって山のように押し寄せてくる。
そうした中で、我々には、種々雑多で真偽入り混じったネット情報を、吟味、選別していくリテラシーが求められると言われて久しい。だが、そう単純な話でもない。検索、閲覧、購買等の履歴、年齢、性別や位置情報など、様々なデータが少数の組織に蓄積され、個人毎に検索結果やニュースの表示等が、パーソナライズ化されている。
例えば、ネットニュースのサイトでは、私と隣の人のスマホで表示されるニュースタイトルは、思いのほか違いがある。サイト運営者は、個々に異なる関心のある情報を中心に表示する、つまりパーソナライズ化することで、記事の閲覧を増やそうとする。逆に、関心のないテーマは、ユーザーの目から遠ざけられる。
SNSも同様である。何らかの共通の価値観でつながっているSNSは、居心地が良いコミュニケーション空間を形成する。そこに異質な性質のコミュニケーションは排除され、そこに流れ込む情報も「最適化」されていく。

「見たいものを見る」「知りたいことを知る」という当たり前の行為が、知らないうちに先鋭化され、「見たいものしか見ていない」「知りたいことしか流れてこない」ことに無自覚になっているような気がしてならない。接している情報が、あるアルゴリズムで編集されていることに気が付かない、または、気を留めない。
こうしたパーソナライズを、心地よいと思うか気持ち悪いと感じるかが、個々人に問われているのかもしれない。

2011年に、イーライ・パリサーは、著書「The Filter Bubble」(日本では「閉じこもるインターネット」)で、こうした状況をフィルターバブルと呼んだ。フィルターとは、個々のユーザーが見たくない情報を遮断すること、バブルとは、そのフィルターに包まれた状態のことである。同氏は、「人々を新しいアイデア、話題、重要な情報から締め出すことになる」と警告した。

これに対し、予想外の情報に出会ったり、予想外のものを見つけたり、検索しようとしているものや関心を持っているものとは、全く異なる概念に偶然出くわすことを、「セレンディピティ」と呼んで注目されている。セレンディピティを計画的に創出するという、まるで1周半したような論法まである。一方、ニュースサイトの中には、わざわざユーザーの関心とは逆のニュースを表示するパーソナライズを開発しているところもある。何とも笑えない。
いずれにしろ、ネット社会(死語かもしれないが)とは、こういう社会であることは、明確に自覚するべきではないだろうか。

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神谷 孝

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経営コンサルティング部
主任コンサルタント 神谷 孝