来年からは、分配金支払いが税制上有利になることも
2019年07月30日
従来、投資信託(※1)を通じて長期投資を行う場合、分配金の支払は課税のタイミングを早めてしまうため投資家にとって不利であり、なるべくファンド内に利益を留保して分配金を払出さないことが投資家にとって有利であることが「業界の常識」であった。
だが、2020年1月から新たに導入される「外国税額控除」の仕組みによって、この常識があてはまらない場合が出てきそうだ。
「外国税額控除」とは、納税者が外国で納めた税額がある場合、その外国税額をその納税者が国内で納めるべき所得税額等から差し引ける仕組みである。個人投資家が外国株式や外国債券などに直接投資をした場合は、確定申告により外国税額控除を受けることができる。国内の投資信託を通じて間接的に外国株式や外国REITなど(※2)に投資をした場合にそれらの配当・分配金に対して生じた外国税額について、現在は外国税額控除の対象とならないが、新制度では対象になる。
新制度では、投資信託を通じて外国に投資した場合の外国税額は、その投資信託が投資家に分配金を支払った際にかかる所得税額から控除される(すなわち、分配金に対して源泉徴収される税額が現在より減る)。分配金支払いの際に外国税額の調整が行われるものであり、裏を返すと分配金が支払われない限り外国税額の調整は行われないことを意味する。つまり、ファンド内に利益を留保して分配金を払出さないような投資信託の場合は、外国税額控除を受けられないのである。
新制度では、投資信託が分配金を支払うと課税時期が早まるというデメリットがある一方で、外国株式や外国REIT等に投資をした場合は外国税額控除を受けられるというメリットがあり、長期投資を望む投資家であっても、必ずしも分配金の支払いが不利とは言えなくなるのである。一定の前提の下ではあるが、分配金を払出さないファンドと払出すファンドの税引後のパフォーマンスを筆者が試算したところ、分配金を払出すファンドの方が税制上有利になる可能性が高いことが示された(※3)。
来年からは、少なくとも、外国株式や外国REITなどに投資する投資信託においては、分配金を払出さない方が投資家にとって有利、とは必ずしも言えなくなるだろう。
(※1)本コラム中、「投資信託」とは公募の国内投資信託(ETF、JDR、REITを除く)を指すものとする。
(※2)外国債券の利子にかかる外国税も制度上は外国税額控除の対象となるが、実際に外国税を課している国は少ない。
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- 執筆者紹介
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金融調査部
主任研究員 是枝 俊悟
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