株価形成の謎

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2019年05月22日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主席コンサルタント 太田 達之助

配車サービス事業を営む米ウーバーテクノロジー社が5月10日にニューヨーク証券取引所に上場した。米中貿易摩擦の悪化懸念から、5月に入って世界規模で投資マインドが冷え込んだ影響もあり、当初市場で予想された時価総額1,000億ドルを大きく下回る水準で株価が推移している。同社の昨年の業績をみると、売上高が前年比42%増の113億ドル、営業利益が30億ドルの赤字である。研究開発費などの先行投資負担が重いため、今年も大幅な赤字が継続する見込みだ。株価が想定を大きく下回ったとはいえ、時価総額はきわめて高い水準である。5月16日現在の同社の時価総額は695億ドルで、毎年7,000億円以上の研究開発費を投じながら6,000億円以上の当期純利益を稼ぎ出すホンダの時価総額を5割以上上回っている。

バイオベンチャー企業の株価の動きも激しい。創薬ベンチャーのサンバイオは、脳梗塞などの再生細胞の新薬開発への期待により、株価が昨年10月末から3カ月で約4倍になった。ところが今年1月に慢性期脳梗塞の再生細胞薬の臨床試験が不調だったと公表すると、株価が5営業日で約5分の1になった。サンバイオの時価総額はピーク時には6,000億円を超えていたが、直近期の売上高7億円、当期純損失29億円という業績からすると、期待先行で株価が形成されていたといえる。

これらのケースをみてみると、株価形成に関して二つの大きな疑問がわいてくる。「なぜ成長期待企業の株価がここまで高くなってしまうのか」ということと、「なぜ成長期待企業の株価がこんなに乱高下するのか」ということである。そもそも株価は当該企業の将来の利益・キャッシュフローがどれくらいであり、それがどの程度の確からしさで実現するかといった推測に基づいて形成される。ということは、目先が赤字で利益の計上が不確実な企業は、将来「もの凄いレベルの利益」を生み出さなければ高株価を正当化できない。

株価形成に関する二つの疑問の答えは、世界的なカネ余りがもたらす需給要因にあると考えられる。例えば、ベンチャーファンドに多額の資金が集まれば、その投資対象となる企業に資金が向かうわけであるが、投資対象として有望な企業が少ないと、少数の有望企業に資金が集中して実力以上に株価が高騰するのだ。そこに値動きの大きい投資対象で一儲けしようとたくらむ投機家が参入して株価変動が増幅することになる。

一部のベンチャー企業の株価高騰をみると、適正な企業価値評価(バリュエーション)とは別の次元で株価形成が行われているような気がする。遠い未来のバラ色の事業計画や脚色されたビジネスモデルへの投資よりも、堅実に利益を計上している企業への投資、つまり経済的裏付けのある投資を行う方が賢明なのではないかと考えられる。

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太田 達之助
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