令和時代に昭和の就職氷河期世代が人生を再設計?

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2019年05月21日

「平成」の終幕が間近に迫った4月の半ば、「令和」という新時代幕開けへの期待感が日一日と高まるなか、経済財政諮問会議が「就職氷河期世代の人生再設計に向けて」という資料を公表し、その内容が各種メディアやSNS上で大きな話題となった。

この資料では、バブル崩壊後の非常に厳しい就職戦線に直面した、いわゆる就職氷河期世代の不安定就業者や無業者に対して今後3年程度で集中的な就業支援策を実施し、その具体的な実行プログラムを今夏までに打ち出すべきとの提言が示された。前回の同会議において、就職氷河期世代のリカレント教育、能力開発等の促進策の拡充について言及されており、それを発展させたものだと捉えられる。

就職氷河期世代にあたる筆者も、タイトルにつられて資料に目を通したが、全体としてみると、その内容自体は前向きに評価できる。ただし、世間から批判的な意見が続出した箇所については、同じような違和感を覚えたのもまた事実である。具体的には、就職氷河期世代を「人生再設計第一世代」という新たな名称で呼び直したことや、その世代の地方への人材移動促進を示唆したことが挙げられる。

これらの問題について、就職氷河期世代の立場から思うところは多々あるが、あまり深入りせず、ここでは個人的に今後注目したい3つのポイントについて、簡単な雑感を述べるにとどめたい。

第一に、「人生再設計第一世代」という新名称を変更するか、もしくは特定の名称の使用を控えるかという点である。この名称そのものは、良かれと思って付けたに違いないが、それを見た世間の評判はすこぶる悪い。本来、前向きに推進すべき政策が、ネーミングによってネガティブな印象を持たれるべきでないことを踏まえると、世間の評判が悪い名称に固執する必要性はないと考える。

第二に、政策の取り組み状況を測定するためのKPI(重要業績評価指標)として、適切な指標が設定されるかである。いかに立派な就業支援策を打ち出したとしても、その政策目標が達成できなければ、「絵に描いた餅」に終わる。そうならないためにも、KPIの活用が重要となるが、もし不適切な指標が選ばれれば、誤った針路を進んでしまうことになる。

第三に、理想的には、特定の世代に限らず人生再設計が行えるような政策となることが望ましい。たしかに、就職氷河期世代の就職状況が非常に厳しかったことは、就職率の推移からも明らかで、とりわけ2000年前後は、「超」就職氷河期の様相を呈していた。しかし、日本の労働市場の底流にある問題は、「就職氷河期世代であるか否か」ではなく、「不安定就業者や無業者の状態を余儀なくされているか否か」であり、そこに世代の壁は存在しない。

いずれにせよ、今夏までに明らかになるであろう令和時代の新たな就業支援策が、昭和に生まれた就職氷河期世代の氷を溶かし、労働市場全体をも温めるような心地よい風となることに期待したい。

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長内 智
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 長内 智