プーチン大統領の支持率低下の背景に年金改革

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2019年04月10日

  • シニアエコノミスト 菅野 沙織

ロシアでは、プーチン大統領と政府の支持率が低下している。レバダセンターの世論調査によると、2019年2月時点でプーチン大統領を支持するとの回答は64%、支持しないとの回答は35%となっている。2014年のクリミア併合時に一時的に89%まで上昇した同大統領の支持率は、2018年前半までは80%台で維持されていたが、同年6月に発表された年金改革、つまり年金支給開始年齢の引き上げに対する国民の不満が収まらず、その後は支持率低迷が続いている。

2018年時点で女性が55歳、男性が60歳であった年金支給開始年齢が、今後10年間でそれぞれ60歳と65歳まで段階的に引き上げられることになった同改革に、国民は大きな不満を抱いている。ロシアの現在の年金支給開始年齢は他国と比較してかなり低いうえ、10年後、つまり年金改革完了後でも世界の水準に照らせば決して高くない。しかしながら、ロシア人の平均寿命は短く(2017年は73歳、日本と比較して10歳も短い)、またプーチン大統領が2005年には自分の任期中に年金支給開始年齢の引き上げはないと「公約」したことを考え合わせると、国民は「裏切られた」と感じることも理解に難くない。

こうした中、ロシア国内のメディアの注目を浴びたのは、3月17日に実施された反政府デモである。デモの実施日は連邦制存続の是非を問う初の全ソ国民投票が1991年に実施された日にちである。また、翌18日はクリミア半島併合5周年の記念日であるだけでなく、昨年はプーチン氏が大統領再選を果たした象徴的な日でもあった。

このデモの主な目的は政府に対し国民の不満を訴えることであった。不満の矛先は、やはり年金改革を進めようとしている政府と、高金利(3月現在、中銀の政策金利は7.75%。これに対して2月のインフレ率は5.2%)を維持しているロシア中央銀行である。デモ主催者は、政府の退陣や年金改革を中止して年金支給開始年齢を改革前の水準に戻すこと等を要求に掲げており、このことは年金改革の影響の大きさをうかがわせている。

しかし、ロシア人の寿命は比較的短いとは言うものの、ロシアは高齢化が進んでおり、2030年までに人口に占める65歳以上の国民の割合は20%近くになると予想されているため、年金改革が急務であることは否定できない。加えて、年金支給開始年齢よりも5~10年早く年金受給開始が可能な労働者が全体の3割を占めている。具体的には地下(炭鉱、地下鉄や自動車用トンネルの建設現場)で働く労働者、石油精製所および原子力発電所等の労働者、さらに製薬工場従業員、医療関係者等も前倒しでの年金受給が認められているのである。

ただ、年金改革は不可避であるとしても、国民への明確な説明がないまま2018年に同改革を決定したことで、今プーチン政権は大きなツケを払わされている。プーチン氏や政府が不満と不安を募らせている国民とどう向き合うかに注目を浴びている。

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