SDGsへの取組みの質を高めるHRD

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2019年01月25日

  • 岡野 武志

国連開発計画(UNDP)は、経済的な指標だけでは表せない社会の進歩や豊かさについて、「人間開発(Human Development)」という考え方を示している。人間開発は、自らの意思に基づく選択の自由を広げることと捉えられ、このアプローチは「持続可能な開発のための2030アジェンダ」や「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」にも共有されている。UNDPが公表している「人間開発指数(Human Development Index)」を見ると、日本は人間開発最高位グループに位置している(※1)。しかし、SDGs達成に向けた取組みの質を高める上では、充実させていくことが望まれる部分も見られる。

2015年までの「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)」が、主に開発途上国を対象としてきたのに対し、MDGsの後継となるSDGsは、先進国を含めた幅広い国や地域に適用される。最近では、日本国内の企業や組織にも、SDGs達成に取組む動きが広がっている。しかし、方針や計画を掲げるだけでなく、SDGsへの取組みに魂を吹き込むためには、実際に行動する人材(Human Resources)が、自ら『働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)』(※2)を体感できていることが重要になる。AIやロボットなどの活動領域が広がる中、『完全かつ生産的な雇用』を確保しながら、SDGsへの取組みを持続可能なものにしていくためには、『包摂的かつ公正な質の高い教育』を通じた人材能力開発(Human Resource Development)も求められるであろう(※3)。

SDGsは、経済成長と環境保護の調和を図るとともに、『社会的包摂性』を重要な要素と捉え、そこには『誰一人取り残さない』という思いも込められている。より多くの人々に自由な選択の機会を広げるためには、ステークホルダーの立場や状況を正しく理解する必要があり、これまで以上に人間に関わる探究や洞察(Human Research)を深めていくことが求められる。また、これまで解決できなかった課題を解決や緩和に導き、複雑化や深刻化が進む課題にも対応していくためには、過去にはなかったようなモノをつくり、できなかったコトを可能にしていく必要もある。そのためには、積極的な研究開発(Research & Development)を通じて『イノベーションの推進』を図り、さまざまな分野でブレークスルーを起こしていかなければならないであろう(※4)。

『経済、社会及び環境の三側面を調和させる』ことを目指すSDGsは、従来のCSRやESGなどの延長線上にある取組みだけで達成できるとは考えにくい。SDGsへの取組みの質を高めるためには、取組みを支える基盤や体幹を強くしなやかにして、さまざまな課題に真摯に向き合っていくことが求められるであろう。ここまでみてきたH(Human)、R(Research/Resource)、D(Development)の組み合わせは、SDGsへの取組みを支える基盤や体幹の中でも重要な役割を担う部分であり、『人間の潜在力を完全に実現し、繁栄を共有する』ための一歩として、すぐにも充実させていくことができる部分でもあるように思える。

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