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「習う」企業と「学ぶ」企業

2016年06月01日

リサーチ本部 主席研究員 兼 社会連携担当 岡野 武志

2017年度入社の大学卒業予定者について、6月1日から公式に採用選考活動をはじめる企業も多い(※1)。社会の急速な変化が予想される中、各企業がこれからどのように人的資源を構築していくのか、その戦略は企業の将来性を知る上でも注目されよう。近年の大学(学部)新卒者の就職状況をみると(※2)、社会の高度化や複雑化に伴って、専門的な知識や技術に対するニーズが高まっているためか、工学や保健などの理系分野を中心に、専門的・技術的職業従事者としての就職者数が増加している(※3)。社会科学や人文科学などの文系分野からも、情報通信関連の技術者として就職する者などが増えている。

図表1:大学(学部)卒業者の職業別就職状況

一方、文系分野全体でみると、15年3月の新卒就職者のおよそ2/3は、事務や販売の従事者として就職している。日本では、職業の内容を固定せず、いわゆるメンバーシップ型で新卒者を採用し、社内で人材育成を図る傾向も根強い。「能力開発基本調査(平成27年度)」によれば、正社員に対する能力開発の責任主体について、企業主体で決定する、またはそれに近いとする企業が76.6%を占める。正社員に対する教育訓練についても、74.0%の企業がOJTを重視する、またはそれに近いと回答している(※4)。しかし、社内で蓄積された知識や技術、経験などを「習う」だけで、変化する社会に対応できるとは限らないであろう。

一般職業紹介の状況をみると(※5)、景気回復などに伴って全体の新規求人倍率は13年の1.32倍から14年には1.49倍となり、15年は1.63倍まで上昇している。新規求人数が多い「サービス職業」では、「介護サービス(78万人)」、「飲食物調理(55万人)」、「接客・給仕(49万人)」などの求人が目立つ。一方、就業者数(※6)が最も多い「事務」の職業では、15年でも新規求人倍率は0.60倍と低水準にあり、特に新規求職数が130万人を上回る「一般事務」の職業は0.49倍と際立って低い。また、全体としてはニーズが高い「専門的・技術的職業」の中でも、「製造技術者」の新規求人倍率は0.61倍にとどまっている。

図表2:新規求人数・新規求職数・就業者数(2015年)

科学技術の発展に伴い、情報通信機能や人工知能などを駆使した機械は、複雑な判断や繊細な動作を要する範囲にも活動領域を広げつつある。ネットワーク化やボーダレス化が進む世界では、一つの国や業種で起きたイノベーションが、他国や異業種などに波及することも珍しくない。また、足元の労働力不足が深刻な職業ほど、機械化や自動化などの効果が高く、イノベーションが加速されることも考えられる。人間の主な役割が、機械ではできない仕事や機械を使いこなす仕事などに向かうとすれば、新たな能力やこれまで以上の力量を獲得することも求められ、自ら「学ぶ」ことの重要性はさらに高まるであろう。

社会人が「学ぶ」ことについては、費用の高さや勤務時間の長さ、職場の理解を得られないことや適した教育課程がないことなど、さまざまな課題が指摘されている(※7)。働きながら学ぶためには、受講費用の軽減や夜間・休日開講、e-ラーニングやMOOC(※8)の充実など、学びやすい環境づくりが必要になる。企業にも、時短勤務やフレックスタイム、在宅勤務や休職・兼職制度、費用の分担などにより、柔軟に支援する姿勢が望まれよう。自らの意思と選択で学び、学び直し、学び続けながら、キャリアをデザインできる人材を育む企業では、「習う」企業に比べて、新たな価値や多様な価値が生まれやすいように思える。

(※1)「採用選考に関する指針」日本経済団体連合会
(※2)「学校基本調査」文部科学省
(※3)ここでは、学校基本調査の分類における理学、工学、農学、保健を理系とし、それ以外を文系として集計している。
(※4)「能力開発基本調査」厚生労働省
(※5)「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」厚生労働省
(※6)「労働力調査」総務省
(※7)「『学び続ける』社会、全員参加型社会、地方創生を実現する教育の在り方について(第六次提言参考資料)」 教育再生実行会議
(※8)Massive Open Online Course(大規模公開オンライン講座)

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リサーチ本部
主席研究員 兼 社会連携担当 岡野 武志