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実は「冬」時間廃止を検討している欧州の夏時間(サマータイム)制度

2018年12月27日

ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 菅野 泰夫

日本では2020年東京オリンピック・パラリンピック開催時の酷暑対策の一環として、約50年ぶりとなるサマータイム制度の導入が検討されていたという。欧州でも第一次世界大戦時にエネルギー消費を節約する目的で同制度が初めて導入され、以降廃止、再導入など国によってまちまちであった。しかし、1980年から徐々にEU共通の制度としての法制化が進められ、2001年より3月の最終日曜日に時計の針を(EU域内で一斉に)1時間進めて夏時間とし、10月最終日曜日に1時間戻して冬時間に切り替えている。3月末から日の入りが1時間延びるため、夏場は仕事帰りに明るい中でスポーツができるなど楽しい時間が増えるというのが実感だ。

ただ日本ではサマータイム導入に対し、煩雑さや健康被害、長時間労働につながる恐れなどから反対派の意見が多く、実施までのハードルは高いという。確かに欧州ではバイオリズムへの悪影響といった健康被害や、主眼であった省エネ効果がわずかであるといった理由から、サマータイム制度の廃止を求める声も高まっている。時間変更の影響を大きく受ける運輸業界の支持もあり、欧州委員会は2019年以降サマータイム制度を廃止した上で、EU加盟各国が夏時間か冬時間のどちらかを選択することができる改正案を提出していた。

欧州での廃止をめぐる報道を見て、やはり欧州でも夏時間なんて面倒なものを廃止するのかと思った人も多いはずだ。ただこれはあくまでも時間の切り替えに反対しているのであり、夏時間そのものに反対しているわけではないようだ。欧州委員会の改正案は、2019年3月に夏時間に切り替えた後、その後、冬時間に戻すか、夏時間を維持するかを加盟国が選択できるとしている。冬時間維持ならば、10月最終日曜日に時間を戻して2020年から夏時間に切り替える必要がなくなる。要するに、(いわば)冬時間を廃止するか否かを選択させるのが、今回の改正案の内容である。

欧州でも相対的に南に位置する国々は、1時間夜が長いメリットは高いため、フランスやイタリアなどは夏時間を希望することが予想できる。また最近、ブレグジットで何かと注目されているアイルランド島では、EU加盟国であるアイルランド共和国も、夏時間か冬時間のどちらかを選択することとなる。ただ2019年3月にEUから離脱する予定のため今回の法改正は対象外となるはずの英国は、従来どおりの(時間を切り替える)サマータイム制度の維持を希望している。そうなると英領北アイルランドと同じ島内にもかかわらず時差が生まれる可能性がある。島内にはハードボーダーがないが、車などで島内を移動した瞬間に時差が生まれれば、さらなる論争の種になることは必須であろう。

なお、12月に行われたEU運輸相の閣僚理事会では、列車や飛行機の時間変更にはおよそ18カ月の準備期間が必要とされるなど調整に手間取るため、サマータイム制度廃止のタイムリミットを2021年まで延期することを決定している。ユンケル欧州委員会委員長は、2019年10月の退任前にこの改正案をまとめようと3月前までの決定に意欲を燃やしていたが、早急な変更にはならない模様だ。

日本では東京オリンピック・パラリンピックのためだけに夏時間制度を導入することはあり得ないという論調が多いようだが、オリンピックはきっかけにすぎない。特に最近、就労時間を厳格に管理している日本では、残業時間が増えるという批判は徐々に当てはまらなくなってくるであろう。今回、日本では法案提出を断念してしまったとのことだが、米国でも多くの地域で導入されているサマータイム制度について、頭ごなしに否定せずに、もう一度、検討してみても良いかと思う。

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菅野 泰夫

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ロンドンリサーチセンター
シニアエコノミスト(LDN駐在) 菅野 泰夫