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「働かざる者食うべからず」は社会を良くするか?

2018年12月10日

金融調査部 研究員 中村 文香

アリとキリギリスという有名な童話がある。夏、アリが冬に備えてせっせと働く傍らで、キリギリスは陽気にバイオリンを弾いたり歌ったりして過ごしている。冬になって食糧がなくなると、キリギリスは困り果て、アリに助けを求める。結末は様々なバリエーションがあるようだが、オリジナルの結末は、アリが食料の提供を拒み、キリギリスが飢えて死んでしまうものだ。キリギリスの鼻先でぴしゃりと扉を閉めるアリの台詞は次のようになるだろう。「働かざる者食うべからず!」

新約聖書にも「働かざる者食うべからず」という一節があり、今も昔も、世界中でこうした考え方に共感する人は多いだろう。こうした考え方に基づく政策を、社会保障政策では就労(work)と福祉(welfare)を結びつけたワークフェア(workfare)と呼ぶ。代表的な事例としてアメリカの困窮家庭一時扶助(Temporary Assistance of Needy Families、以下TANF)があり、受給者に対し就労または職業訓練・求職活動を義務付けることで経済的自立を促す。就労等の義務を果たさなければ即座に給付が打ち切られる場合もあるため、フリーライダーを許さない、まさに「働かざる者食うべからず」を体現した政策と言えよう。結果的に公的扶助の給付額を抑えることにもつながるので、福祉の持続可能性を高めることになる。その一方で、TANFでは、受給のために低賃金で条件の悪い職に就くことを余儀なくされたり、実際には就労が難しい状態であるにもかかわらず受給が認められなかったりといった負の側面もある。

「働かざる者食うべからず」は福祉政策の持続可能性を高めるために重要ではあるが、あまりに厳格なワークフェアは結果的に格差を固定してしまう可能性がある。TANFの給付対象となる人々が就ける職業は条件の悪い低賃金労働がほとんどで、長時間働いても貧困から抜け出すことができないだけでなく、厳しい就労条件の下で育児等に時間を使うこともできなくなるケースがある。就労していなければ即座に給付が打ち切られる状況では、より良い条件の職に就くための学習等を行うこともできず、育児等に手が回らなければ、将来世代でも貧困の再生産が起きてしまう可能性がある。

近年、働き方はますます多様化し、個々人が働く時間や場所、労働時間を比較的柔軟に選べるようになってきている。しかし、そうした恩恵は厳格なワークフェアの下で受給しながら働く人々には届いていない。単純な職業訓練にとどまらない学習支援や、家事育児支援を行うことによって、受給者がより高いモチベーションを持って働ける職に就くことを可能にできれば、社会にとってもプラスとなるだろう。

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執筆者紹介
金融調査部
研究員 中村 文香