基礎研究力を高める大学機能の再構築

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2018年10月31日

  • 岡野 武志

ノーベル賞が発表される時期になると、日本の基礎研究への投資不足が話題になり、投資不足が基礎研究力を低下させてきたことが指摘される。たしかに、日本の科学技術の研究費は大半が企業で使用され、その多くは製品やサービスに近い開発研究に使われている。2016年度に自然科学に使われた研究費のうち、基礎研究に使われた資金は全体の15%程度にすぎない(図表1)(※1)。

しかし、科学技術基本法施行(1995年度)以降の基礎研究費の推移をみると、その金額は緩やかながら増加傾向にある。基礎研究費の半分程度を使い、基礎研究の中核を担う大学等では、研究に関わる人材(研究関係従事者)の数も増えている(図表2)。基礎研究を支える資金や人材のあり方には議論すべき点が多いものの、基礎研究力が低下してきた原因が、資金や人材の量的な面だけにあるとは考えにくい。

基礎研究の中核を担う大学等について、研究関係従事者数の推移をもう少し詳しくみると、研究者数の増加とともに、研究関係者(研究補助者、技能者、研究事務その他の関係者)の数も増えてきたことが分かる(図表3)。IT化や自動化が進む中、企業では全体に占める研究関係者の比率が低下してきたのに対し、大学等ではその比率はむしろ上昇傾向にある。研究費獲得のための事務手続きなどが、研究活動の効率化を妨げているとすれば、事務手続きを簡素化したスモールスタートの研究を増やし、研究の進捗や成果に応じて、スピードアップやスケールアップを図る資金配分方法などを検討することが必要になる。

大学は研究機関であると同時に、教育機関でもあるため、研究者が教育活動や学内事務などに時間を割かれ、研究に充てられる時間の割合が低下しているとの見方もある(※2)。一方、大学の学部から大学院等に進学する者は、卒業者全体の1割程度にすぎず、第一線の研究者が学部教育に携わる必要性は限られている(図表4)(※3)。学部生の大半が、卒業後に社会人として活躍することを望んでいるとすれば、教育を専門とする者や実務家による教育などを充実させ、社会的なニーズと大学機能との間に生じてきたミスマッチを解消していく必要もある。

教育を受けるために支払われた学費が、研究費としても使われれば、対価に見合った教育サービスを提供することはできない。研究を行うはずの人材が、教育や学校運営も背負うことになれば、研究活動は削られてしまう。教育機能と研究機能が混在し、それぞれの活動に使われる資源が不明確であれば、教育サービスの利用者だけでなく、補助金等を負担する納税者や外部資金の提供者などからも理解や協力を得ることは難しい。もとより教育と研究では、ガバナンスやリスクマネジメントの視点が異なり、求められる情報開示や説明責任にも違いがある。教育と研究の両面で活躍が期待される大学では、それぞれの機能に適した仕組みを再構築することが、基礎研究力を高める近道のように思える。

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