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真逆に進む2社の戦略

2018年10月16日

経営コンサルティング部 主任コンサルタント 神谷 孝

国内マーケットの縮小から合従連衡が進行する。特に、装置産業の色合いが強い製造業では、かつて、そんな状況が頻出した。

産業ガスという業界がある。産業ガスとは、家庭等で使用される燃料用ではなく、酸素、窒素、アルゴンなど鉄鋼や化学、半導体等の製造プロセスで使用されるものを言う。食品向けの冷媒や酸化防止用、さらには、医療分野でも必要不可欠な存在である。この業界も例に漏れず、1990年代初頭にあった大手8社は、2000年代半ばにかけてほぼ3社に集約された。この中で生まれたのが、合わせて国内シェアの7割を占める大陽日酸とエア・ウォーターの2大メーカーである。

両者は国内では圧倒的なシェアを持つことになったものの、今後の国内需要の伸びは期待できない。一方、海外市場は4大グローバル企業による寡占化されたマーケットである。成長戦略を描くには厳しい状況にあった。

ところが、その後、両者はともに目覚ましい成長を遂げている。売上高は、2002年度時点で2社ともに2,300億円台だったが、2017年度には大陽日酸は2.7倍、エア・ウォーターは3.2倍に拡大し、6~7,000億円台に達した。時価総額も、それぞれ7.2倍、5.6倍と膨らみ、まるで競い合うかのように発展している。

さて、面白いのはここからである。両者は、生き残りをかけ、国内産業ガス事業に次ぐ新たな成長領域を獲得する必要があったが、ほぼ180度方向の異なる道を進み、異なる山を目指してきたのである。共通するのは、新規領域の獲得に際し、M&Aを最大限活用したという点である。

大陽日酸が目指した領域は、あくまでも海外である。2005年度以降、2,200億円余りをつぎ込み、米国、アジアの産業ガス会社を買収してきた。アジアは長期的に成長が期待される地域であり、米国は世界最大、かつ、今後も堅調な需要拡大が見込まれる地域である。グローバル大手企業が席巻する中で、米国でのわずかなシェア獲得であっても同社にとっては決して小さい規模ではない。アジア、米国中心に売上が拡大し、2017年度の海外売上高は、15年前の20%から44%にまで上昇している。

一方、エア・ウォーターは、国内において既存事業の川下方向に領域を拡大するという方向に舵を切った。産業ガスの出荷先には、素材メーカーなど需要環境が厳しい先が多いものの、食品、医療関連などの消費者に近い分野では、まだ成長余地がある。そもそも、同社は医療用酸素の国内最大手で、医療向けの顧客基盤も厚い。その基盤を活かして医療にかかわる様々なニーズを取り込む考え方である。2003年に医療用ガス等の医療装置・機器メーカーに資本参加し、その後、2007年には完全子会社化。その他、医療機器関連の製造、商社、メンテナンス、物流会社を次々と買収してきた。食品関係では、相模ハム、大山ハムの買収によりハム・ソーセージ製造を拡大させるとともに、農産物の流通・加工、さらには、野菜・果物小売店までにも領域を拡張している。同社の国内ガス関連の営業利益は、15年前の69%から2017年度は34%にまで低下した。

20年ほど前まで、同じ厳しい状況に置かれてきた2社が、その後、M&Aを駆使しながらも全く異なる方向に展開し、今なお、両者がほぼ互角の発展を遂げているという構図は、非常に興味深い。長期の戦略を策定し、進める上で、どの戦略を選択するかが重要であるのは言うまでもないが、より重要なことは、一度選択した戦略を自信を持ってやりきることではないだろうか。

さて、どちらの山が高いのか、今後も注目していきたい。

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神谷 孝

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主任コンサルタント 神谷 孝