習近平、プーチン、エルドアン、誰もが「強面(こわもて)のポピュリスト」

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2018年10月04日

  • 児玉 卓

2018年にはいくつかの国で大きな政治イベントがあった。中国では3月に開催された全国人民代表大会において、国家主席の任期を「2期10年」までとする規定を撤廃する憲法改正案が採択された。これによって、習近平氏は2期目が終わる2023年以降も国家主席の地位を維持することが可能となった。同じく2018年3月、ロシアでは現職のプーチン氏が大統領選挙で再選された。任期は2024年までだ。2000年に大統領に就任し、首相職を務めた2008年から2012年をはさむ長期政権である。しかも、2024年から再度首相職などを経由して大統領に返り咲きを図らないとも限らない。あるいは、大統領3選禁止を定めた憲法が改正されるかもしれない。もはや旧ソ連の書記長同様、プーチン氏の任期は事実上なし(終身制)とみるべきか。また、6月にはトルコのエルドアン氏が、やはり大統領再選を果たした。トルコでは2016年7月に一部の軍関係者によるクーデター未遂事件が起こっており、以来敷かれている戒厳令下で大量の軍関係者、公務員が失職し、野党指導者やメディア関係者が拘束されている。更に、2017年に憲法が改正され、議院内閣制から大統領制への移行が決まり、大統領権限が大幅に強化されている。従って、「再選」ではあるが、6月以前、以降では、エルドアン氏が大統領職にあることの意味は明らかに変化している。

習近平氏に、プーチン氏、エルドアン氏、この3人には共通点がある。誰もが「強面(こわもて)のポピュリスト」だということだ。習近平氏の権力基盤は一見盤石なように見えなくもないが、例えば安倍首相との握手のたびに表情を豹変させるのは、明らかに同氏が中国国民の歓心を買うことに価値を見出しているからだろう。プーチン氏の強面もやはり政敵と「外」に向けたものだ。プーチン氏は、同氏が追慕してやまないかつての超大国ソ連でさえ、国民に愛想を尽かされれば崩壊してしまうことを誰よりもよく知っている。

そして、三者三様、それぞれに事情は異なりながらも、彼らの権力基盤、政権の正統性は多分に経済成長の実績に負っている。しかし、周知のように、中国は人口動態的にみて不可逆的な成長減速過程に入っている。ロシアの成長は資源価格次第の面が強いが、人口動態的にみれば「BRICsブーム」当時の高成長の再来は期待しがたい。だからこそ、最近の年金受給開始年齢の変更をめぐるゴタゴタが示すように、ロシアも分配政策に気を使わざるを得なくなっている。一方、トルコは若い人口を抱え、多大な成長余地を残している。しかしその余地を、「経済音痴」の大統領への権力集中がいたずらに潰してしまうリスクが高まっているように思える。

問題は、成長の恒久的な鈍化、ないしは長期にわたる低迷によって、人気取りの原資が枯渇したとき、彼らポピュリストが何をするか、である。もちろん、まずは成長の延命を図り、それと政権の正統性とのリンケージに固執し続けるのであろう。中国の一帯一路戦略などは、そうした意味合いを少なからず含んでいるように見える。エルドアン氏の「高金利嫌い」も、成長へのこだわりの結果なのかもしれない。しかし、エルドアン氏は恐らく政治による金融政策への介入が通貨の信認を損ねること、従って低金利志向が結局のところ成長促進に逆行する可能性があることを、どうやら十分には(まったく?)理解していない。こうして、成長の延命の限界に直面したとき、強面のポピュリストが対外的な強面を一層明確にしてくることは比較的容易に想像できる。さすがに、第二、第三の「クリミア」が起こるとみるのは、現時点では先走りに過ぎようが、例えば、ロシアと欧米の経済制裁合戦、米中貿易戦争の帰趨については、これまで以上に楽観視を避けるべきかもしれない。

このところ、アルゼンチンの「IMF傘下入り」であったり、「トルコショック」であったり、新興国の経済リスクに焦点が当てられることが増えているが、新興国発の政治ニュースにも十分目を凝らしておきたい。

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