ESG投資で注目度が高まる従業員のモチベーション

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2018年10月01日

  • 菅原 佑香

近年、ESG投資に対する関心が高まっている。ESG投資とは、財務情報だけでなく、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)への取り組み姿勢も重視する投資手法である。ESGの観点を積極的に取り入れている企業は、そうでない企業よりも中長期的な経営リスクが小さく、企業価値が持続的に高まると考えられている。世界のESG投資額を集計するGSIAによれば、ESG投資額は全世界で22兆8,900億米ドル(2016年初)であり、2014年初からの2年間で25.2%増加した。日本の資産運用総額に占めるESG投資の割合は3.4%と全世界平均の26.3%に見劣りしており、今後さらなる投資の拡大が期待される。

ESGのSには人的資本が含まれるが、著者はその一要素である従業員のモチベーションに関する問い合わせを顧客から受けることが多い。従業員のモチベーションと企業業績には関連性があり、働き方改革の一環として従業員のモチベーション向上を企業は重視している。HRM(Human Resource Management)と呼ばれる人的資源管理の領域においては、人材を経営資源と捉えて、適正な配置や成果に応じた報酬管理を行うことで従業員のモチベーションを高めることが、生産性や業績に好ましい影響を与えると考えられている。最近では、企業価値を測る物差しとして、従業員のモチベーションに関する格付けを行って、資本市場に提供しようという会社も現れている。

ESG投資を行う投資家は、モチベーションを向上させるHRMの様々な取り組みの中で、どの企業にも共通して効果的なものとは何か、その答えを求めている。それが分かれば、企業価値の評価基準の指標の一つになり得るからである。だが、各種の取り組みが従業員のモチベーションに与える影響の大きさは、企業の規模や業種、業態、社歴、企業風土、労働組合の影響度、地域性によって異なる。そのため、どの取り組みがその企業にとって最も効果的かは極めて実証的な問題である。

その課題の答えを提供するために、民間研究機関や学術界などに求められることは何であろうか。例えば、ミクロデータから企業ごとの属性の違いを定量的に調整した上で、どういう取り組みが従業員のモチベーションを高めるのかを精査するなど、実証分析を通じた研究の蓄積が引き続き求められる。さらには、企業が公開するESGに関する報告書などに掲載された非財務情報(文章)や企業の持つ人事データを、AI(人工知能)を活用して分析するなど、今後は利用データや分析手法の拡大という観点からも検討が必要だろう。

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