就活ルールの廃止は、学生にも企業にもメリットが少ない

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2018年09月07日

  • 宇野 健司

経団連が就活ルールの見直しを表明した。経団連の立場からすると、「なぜ自らルールを設定して、加盟企業だけが順守を強いられるのか」という違和感は、理解できる。またグローバルな採用スタイルに移行するという「理念」にも、共感する。

ただ、結果として「どのような影響が出るのか?」という「現実」も、しっかりと踏まえた上で、検討すべきだろう。

おそらく就活は、「早期化・長期化」して、一部の意識の高い学生には悪くない話かもしれないが、大勢を占める「普通の学生」にとっては、かなりの負担と労力を割かれることになるだろう。

学生サイドから見ると、早くから就活体験も積める一方で、実際は就活イベントに駆け回り、就活テクニックの習得に精神的にも体力的にも疲弊し、メリットよりデメリットの方が多いのではないかと推測する。

企業サイドから見ても、確かに就活ルールの建前と本音を使い分けるという違和感からは解消されるが、「早期化・長期化」により、採用業務の人的・時間的・金銭的負担が重くなり、今以上に大変な状況になる事態が十分に想定され、結果として、人材紹介会社や就活サイトだけが儲かる、という結果になる可能性が高いように感じられる。

まとめると、企業サイドのメリットは「自由に採用活動ができること」、デメリットは「人的・時間的・金銭的負担が重くなること」。学生サイドのメリットは「早いうちから就活意識が高まること」、デメリットは「学業・サークル・アルバイト・旅行・留学などに使える時間が奪われること」であろう。

数年前に実施された「留学する学生のために8月解禁」というルール変更が思い起こされる。「理念」に共感して、議論は盛り上がり実施されたが、「現実」としては、学生サイドにも企業サイドにもメリットは少なかったため、再度変更され、今の形に落ち着いた経緯がある。

個人的には、グローバル標準の採用や企業の利害だけでなく、「学生ファースト」で考えてほしいと思う。

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