インフラの多重性と多様性

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2018年08月14日

  • 中里 幸聖

日本列島では珍しく東から西に横断した7月末の台風12号。その行方を気にしつつ、今回の夏休みは、さいたま市北部から伊豆半島の伊東に自動車で向かった。

カーナビは、首都高の都心環状線を経由して東名高速に入るルートを提案してきたが、炎天下で渋滞にはまるのが嫌なので、遠回りとなるものの圏央道を通るルートを選択した。首都高と比べるとカーブなどの変化に乏しいが、一度も渋滞につかまることなく海老名JCTから東名高速に入り、すぐさま小田原厚木道路に移った。

「海なし県」の埼玉県人としては、とにかく海が見られること自体が嬉しいので、伊豆半島東部に行く時は、海沿いの真鶴道路、熱海ビーチラインなどの有料道路をわざわざ走ってしまう。しかし、今回は前述の台風の影響による高波などで、海沿いの道が閉鎖されている箇所があるという情報が電光掲示板で示されていた。そこで伊豆半島の山中を通る箱根新道、伊豆スカイラインを経由するルートを通ることにした。通常ならば風光明媚な伊豆スカイラインが濃霧で、直前を走る車さえ見るのに難儀したが、何とか事故に遭わずに伊東に辿り着いた。

都心環状線と海沿いを通るルートを提示していたカーナビでの予想所要時間は3時間強であったが、圏央道と伊豆山中を通った実際の所要時間は3時間半弱であった。濃霧がなければもっと早かったであろう。いずれにしても、今回の移動では、道路インフラの冗長性・多重性(リダンダンシー)を実体験できたことになる。都心vs郊外、海沿いvs山中という異なる属性により、台風等による影響を回避して目的地に到達できた。

今回の移動では有料道路の運営主体の多様性も実感した。海沿いと山中のどちらに行くべきか迷いつつ有料道路である箱根新道に入ったが、どこまで行っても料金所がない。さては、と思い調べると、料金徴収期間満了により2011年7月から無料化されていた。都道府県の道路公社などが管理する有料道路では、久しぶりに行ってみると無料開放されていたという経験を持つ人も多いであろう。なお、箱根新道は、無料化前は中日本高速道路株式会社(NEXCO中日本)の管理であり、現在は国土交通省の管理下にある。

伊豆スカイラインには、有人の料金所があり、入る時点で出るICを告げて距離制の料金を支払う。この辺りの地理は不案内なので、料金所で「伊東に行きたいのですが」と聞くと、「では亀石峠まで」と言われるままに料金を支払った。伊豆スカイラインは、静岡県道路公社の運営である。

今回は通らなかった真鶴道路は神奈川県道路公社、熱海ビーチラインは民間企業であるグランビスタ ホテル&リゾートが運営している。いずれも有人の料金所で定額を支払う。

一方、都心環状線は首都高速道路株式会社、圏央道は東日本高速道路株式会社(NEXCO東日本)とNEXCO中日本が管理している区間に分かれる。小田原厚木道路はNEXCO中日本の管理である。これらは全てETCで支払い可能なので運営主体の違いに気付きにくい。

伊豆半島近辺には他にも有料道路がいくつかあるが、今回挙げただけでも民間から特殊会社まで多様な運営主体が存在する。インフラ運営の効率性や採算性などの観点からは運営主体の多様性は望ましい側面もあるが、強靱性の観点からは一概には言い難い。一方、物理的な冗長性・多重性はインフラの強靱性に資するものである。

伊豆半島は巨大な消費地を背後に抱えているから採算性を確保しやすく、運営主体の多様性が成立し得るという見方もあろう。しかし、様々な自然災害と共存し、また激動の国際情勢に向き合う日本列島においては、必要な社会インフラについては、独立採算の観点だけではないインフラの在り方を、社会全体のインフラの整合性も含めて、いま一度深く検討してもよいのではないだろうか。西日本の豪雨災害は、治山治水関連インフラがメインの話だが、インフラ全般に共通する課題も示している。

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