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EUのESG関係者、今度は時価会計の見直しを要請

-EU版IFRS設定も模索-

2018年08月09日

金融調査部 制度調査担当部長 吉井 一洋

わが国では、ASBJ(企業会計基準委員会)で、金融商品会計へのIFRS(国際財務報告基準/国際会計基準)第9号「金融商品」の導入に向けた検討が2018年1月から行われている。早ければ今月(8月)にも、意見募集を幅広く行うための文書が公表される予定である。

このIFRS第9号は今年(2018年)から適用されているが、IFRSの主要なユーザーであるEUにおいては、IFRS第9号の時価会計の見直しを求める動きが出てきている。欧州はかねてESGに熱心に取り組んできたが、2015年のパリ協定やSDGsの採択以降、その傾向に拍車がかかっている。欧州委員会が2016年10月に設置した「サステナブル(持続可能な)金融についてのハイレベル専門家グループ(HLEG)」の2018年1月の最終報告書“FINANCING A SUSTAINABLE EUROPEAN ECONOMY”では、IFRS第9号の見直しに向けた調査を提案している。

議論となっているのは長期投資の株式などの会計処理である。IFRS第9号では、原則として、株式投資は時価で評価しその変動を当期損益に計上することを求められる。ただし、企業が指定した銘柄については時価の変動を当期損益ではなく、「その他の包括利益」に計上することができる。いわゆる益出しによる当期損益の操作を防止する目的で、売却損益の計上は禁止(リサイクリングの禁止)している。HLEGの報告書では、時価評価、特に株式の時価評価がサステナブル関連の長期投資を妨げている可能性があるとして、EFRAG(欧州財務報告諮問グループ)だけでなく長期投資の専門家が代替的な会計処理を研究すること、およびEUがIFRSを受け入れる際に修正する権限を持つことを提案している。これを受ける形で、今年の3月に欧州委員会が行動計画“Financing Sustainable Growth”を公表し、時価評価に代替する長期投資の会計の開発をEFRAGに依頼する一方で、同月にコンサルテーションペーパー“FITNESS CHECK ON THE EU FRAMEWORK FOR PUBLIC REPORTING BY COMPANIES”を公表し、EUがIFRSをそのまま受け入れるのではなく、修正して域内に適用することの是非などを問うている。

EUでは、長期投資を阻害するものとして、かつて、四半期報告がやり玉に挙がり、開示の強制が取りやめとなった。他方で、ESG関係者を中心に非財務情報の開示の拡充が推進されてきた。ちなみに、わが国では、非財務情報の開示の拡充を推進する一方で、長期投資の観点からも経過的なチェックは必要であることなどから、四半期報告は今後も継続される。今回のEUでの動きは、またしても長期投資を阻害するという理屈で、ESG関係者が、財務諸表作成の基となる会計基準やEUでのIFRSの受入方法の見直しまで求め始めている点で注目される。HLEGの報告書などでは、長期投資家としては保険会社や銀行など、EUにおいてIFRS第9号に批判的な業界も挙げられており、報告書等の内容は必ずしもESG関係者の意見だけを純粋に反映しているとは言えないかもしれない。しかし、サステナブル関連の投資促進を優先するあまり、財務諸表の利用者への情報開示の面はなおざりにされているようにも思われる。ESGを軽視するわけではないが、ESG関係者の提案が、本来的な財務諸表や財務報告の透明性を阻害することにつながっていかないか注視していく必要がある。

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金融調査部
制度調査担当部長 吉井 一洋