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相続登記をめぐる議論

2018年07月18日

金融調査部 研究員 小林 章子

現在、いわゆる所有者不明土地問題などに関して「相続登記」が取り上げられることが多い。誰が土地の所有者であるかは、不動産の権利関係を明らかにする制度である登記によって調べることが可能なはずである。しかし、往々にして相続などの権利移転の際に登記手続きがとられない場合があり、この場合登記から実際の権利者を探し出すことが困難なことも多い。そこで実際の権利関係を相続登記に反映させて所有者不明土地を減らすために、様々な議論が行われているところである。
本コラムでは、その議論を整理してみたい。

まず、すでに措置された対策として、次の3つが挙げられる。

1つ目は、「登録免許税の免税措置」である。2018年度税制改正では、相続登記がなされないまま放置されている一定の土地について相続登記をする場合、登録免許税を免税する時限措置が設けられた。

2つ目は、「法定相続情報証明制度」である。この制度を利用して「法定相続情報一覧図」の写しを取得すれば、相続登記の際に必要な被相続人の戸籍一式の代わりに用いることができる。
これらの対策は、いずれも相続登記の際の相続人の負担を減らすインセンティブを与えることで相続登記を促進するものであり、すでに実施されている。

3つ目は、「対抗要件として登記を必須とすること」である。いわゆる相続法の改正により、相続によって法定相続分を超える財産を相続した場合、他の者に対抗(主張)するためには登記などの「対抗要件」を備えておくことが必須になった(※1)。
これは、登記をしなければ権利を失いうるという不利益(いわば逆向きのインセンティブ)を与えることで相続登記を促進するものといえる。2019年7月12日までに実施される予定である。

このように、相続登記の促進に関しては、すでに様々な措置がとられている。しかし、上記に挙げた3つの措置は、いずれも登記をするかどうかが結局相続人の意思に任されている。そのため少なくとも相続人自身にインセンティブがなければ、登記を促進する効果は期待できない。

ところで、一般的に所有者不明土地として問題になるのは、そのようなインセンティブがないような土地である。つまり、評価額が低廉なために登録免許税や固定資産税などの税負担に見合わない土地や、管理に人手や費用がかかるような土地で、「相続財産」というよりむしろ「相続債務」というのがふさわしいような土地である。
このような土地に相続登記をさせ所有者を明らかにするためには、もはやインセンティブによる自発的な登記を促すだけでは限界がある。

現在議論されている「相続登記の義務化」は、このような問題に効果的だろう(※2)。義務化の範囲など詳細は議論中であるが、実施されれば、実態を反映した登記により、少なくとも実施後に発生した相続については、所有者不明土地問題は過去の話となり得るのではないだろうか。

(※1)改正前は、例えば「Aに甲不動産を相続させる」という遺言による相続の場合は、登記なしに主張できたが、改正後は、どのような相続の方法によるかにかかわらず、登記なしには主張できなくなる。例えば、法定相続分がいずれも2分の1の相続人A、Bがおり、Aが甲不動産を全部相続したとする。Aが登記をする前に、Bが自分の法定相続分にあたる2分の1の持分を他の者Cに譲渡してしまった場合、Aはその部分について自分の権利を主張できないので、結局不動産をCと共有しなければならなくなる。

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金融調査部
研究員 小林 章子