高齢化で消費は減少するのか?

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2018年05月28日

  • 経済調査部 研究員 廣野 洋太

一般的に、高齢化はマクロで見た個人消費に対しマイナスだと考えられている。このように考えられている理由としては、高齢化が少子化や人口減少とセットで考えられていることや、高齢者は現役時代と比較すると消費が減るというイメージによるものだと考えられる。前者については、高齢化というよりは、人口動態による影響であり、純粋な高齢化の影響は後者によるものだろう。今回は、人口や世帯数の影響を取り除いた一人当たりの消費を見ることで、日本における高齢化と消費の関係を確認したい。

一人当たりの消費支出を考える際には、一世帯当たりの消費支出を世帯人員の平方根で割った等価消費を用いることが多い。世帯人員数の平方根で割るのは、テレビなど世帯人員数と消費量が対応しないような項目を調整するためである。以下では、家計調査ベースの等価消費を、CPIの「持家の帰属家賃を除く総合」で実質化した数値を利用している。

まず、2017年の等価消費は1985年と比較して▲0.59%と、確かに高齢化の進展とともに消費が減少しているように見える。ただし、この数字は同一年齢間における消費の変化も反映されており、純粋な高齢化の影響とは言いがたい。

そこで、家計調査の年齢分布を1985年の値で固定することで、高齢化の影響がない等価消費を計算した。この調整した等価消費と実際の等価消費を比較すると、2017年時点では実際の等価消費(高齢化した等価消費)の方が1.5%大きい。この結果だけを見ると高齢化で消費が増えたことになり、一般的なイメージとは矛盾するのである。

この理由としては、現在の高齢者の消費は、一般的にイメージされるほど、現役世代と比較して少なくはないということである。ただし、これは現在の話。1985年時点では高齢者の方が現役世代と比較して消費が少ないというイメージはある程度現実に即していたと考えられる(図表)。

つまり、高齢者の消費が伸び、現役世代の消費が減ったことで、高齢者の消費が相対的に少ないというイメージが現実と乖離したのである。この背景として考えられるのは、現役世代と高齢者の所得環境の違いだ。

バブル経済の崩壊など、大きな景気後退を経験している日本では、実質賃金は1990年代半ばをピークに減少傾向となっている。賃金が主な所得である現役世代にとっては、厳しい所得環境だ。一方で、高齢者の主な所得である実質年金額は政治的な理由から減少させることが難しく、最近10年間ではほぼ横ばいであるものの中長期的には増加してきたのである。

以上を踏まえると、高齢化によって消費が減少するという一般論は、現在の日本では必ずしも当てはまらないことが分かる。高齢化よりはむしろ、現役世代の賃金減少の方が、日本経済にとっては深刻ではないだろうか。

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