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議会の反乱も加わり、いまだ着地点のみえないBrexit

2018年05月17日

経済調査部 主席研究員 山崎 加津子

2019年3月29日という英国のEU離脱(Brexit)の期限まで残り11カ月を切った。英国がEUの前身であるEC(欧州共同体)に加盟したのは1973年で、それから45年にわたって構築してきた関係を根本から変えてしまうプロジェクトが進行しているにしては、英国でもEUでも目立った混乱は生じていない。2016年6月の国民投票から4カ月の間に対ドルで20%近く下落したポンドも、ここ1年は若干ながらポンド高傾向にある。

ただし、Brexitに向けた準備が順調に進んでいるというわけではない。今年3月に英国とEUが、Brexit直後から2020年末までを「移行期間」とし、英国がEU単一市場と関税同盟に留まることで暫定合意した。このことは、金融市場にとっても事業会社にとっても、いったんの安心材料となった。しかし、この合意は英国とEUが離脱協定で合意できなれければ無効になるとされている。離脱協定の中でも特に厄介な英国とアイルランドの国境管理の問題は、これまでのところ現実的な解決策が提示されているとは言い難く、Brexitの先行きは依然として不透明感が漂う。

また、Brexit後の新たな英国とEUの関係がどうなるべきか、いまもって英国内で意見が割れている。争点の一つは、Brexit後に英国がEUの関税同盟に留まるべきか否かという問題である。実は英国が関税同盟に残留すれば、アイルランドとの間の国境管理は不要となる。しかし、メイ首相は「EU単一市場からも、関税同盟からも離脱する」と明言している。関税同盟を離脱し、独自の通商権を取り戻して世界各国とFTAを締結することは、Brexitの主要な動機の一つなのである。ただし、閣僚の中には英国は最大の貿易相手であるEUと現行の関税同盟に非常に近い関係を構築するべきとの意見もある。他方で「移行期間」なども設けず、ただちに関税同盟を離脱するべきと主張する閣僚もいて、閣内で意見の隔たりが非常に大きい。

これに加えて、英国議会の上院がメイ首相の方針に異議を申し立てた。上院はBrexitの準備作業として「EU離脱法案」を審議してきたが、5月8日に、英国はBrexit後もEEA(欧州経済領域)に留まるべきとの修正決議が、野党の労働党のみならず、与党の保守党議員の一部からも支持を得て可決された。EEAとはEUとEFTA(欧州自由貿易連合)で構成される共同市場で、英国がEFTAに加盟してEEAに留まれば、ノルウェーなどと同様にEU単一市場へのアクセスを確保し、関税同盟にも留まることになる。ただし、EU加盟国ではないもののEU規則に従う必要があり、EU市民の自由な往来の受け入れやEUへの拠出金支払いの義務も負う。ちなみに、上院がEEA残留を求めたのは、小売、観光、通信、輸送、金融サービスなどの輸出を維持するためとされる。これまでEU内でサプライチェーンを構築している自動車、航空産業など製造業を中心に関税同盟への残留を求める声が強かったが、英国にとってより比重の大きいサービス産業からも、EU離脱の悪影響を懸念する意見が高まっているとみられる。

今後、これらの修正決議を含むEU離脱法案は下院に差し戻され、再審議される。下院がすべての修正案を元に戻すと決議する可能性もあるが、下院にも「強硬離脱」に批判的な議員は少なくない。また、法案成立には上下両院の支持が必要で、下院がどのような結論を下すか注目される。例えば関税同盟への残留などの軌道修正が行われれば、Brexitに伴う経済的な悪影響を軽減させることが期待される。ただし、英国内で強硬離脱を望む意見は根強く、また、EUは批准手続きに必要な時間を考慮すれば、離脱協定の合意期限はこの10月としており、タイムリミットが迫っている。メイ首相は閣内の意見対立を緩和させることができないでいるうちに、議会の「反乱」にも直面したことになり、Brexitの行方はいまだに混沌としていると言わざるを得ない。

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